29bit 知られざる才能


 「というわけで、目黒真衣さんは簡単に他人のパソコンをハッキングできるほどの、すご腕の持ち主なんですよ」


 シズクは真衣の知られざる才能について語った。


 だから真衣さん、あんなにタイピング速かったんだ。


 そして、そのような技術を持っている真衣さんが、汚職情報流出事件でこんなにも過剰に反応するということは……。


 糸はシズクの話を聞いて、いくつかのピースがはまったような気がした。


 「私と同い年なのに……真衣ちゃんが天才ハッカーだったなんて」


 雛乃も受けた衝撃を隠せないでいる。


 「でも、だとしたら真衣ちゃんはどうしてここに来たんだろう」


 疑問を声に出したのは英美里だった。


 「たしか、ハジメさんは『スカウトした』って言っていなかった?」


 糸は記憶をさかのぼる。


 「そう。 私とハジメちゃんがMANIACを開講しようと思ったとき、すでに目黒真衣さんの存在には気づいていたの。 それで、ハジメちゃんが彼女を第一期生として迎え入れようって張り切って」


 シズクは当時を思い出すように話す。


 「私、真衣さんを初めてみたとき、すごく高い壁を感じたの。 どうも、深く関わってはいけないような……。 たぶん、その壁は真衣さん本人が作り出していたんじゃないかな」


 「どういうこと糸っち?」


 「真衣さん、自分がITに対してとんでもない知識を持っているはずなのに、ずっと隠していたでしょ。 その隠そうとする気持ちがあったから、私、なかなか近づけなかったんだと思う」


 「なるほどねぇ。 そういえば糸っちはずっと『真衣さん』って言ってるもんね」


 「うん……。 でも、真衣さんが自身を偽っていた本当の理由、これではっきりわかったよ。 真衣さんは……」


 糸は最後の言葉を濁した。


 それは、真衣と『犯罪者』をどうしても結びつけたくなかったから。


 「シズクさん、ちょっといいですか?」


 英美里がシズクに向かって言う。


 「なんでしょう?」


 「ハジメさんとシズクさんは、いつから真衣ちゃんの存在を知っていたんですか? 汚職情報流出事件の前ですか? 後ですか?」


 「事件の前から知っていましたよ。 そして、彼女が汚職情報の入ったデータをハッキングで盗もうとしていたことも」


 「じゃあ……じゃあ、なんで真衣ちゃんを止めなかったんですか!!」


 雛乃が興奮冷めやらぬ勢いでシズクに食いかかった。


 「そうですよ、シズクさん。 シズクさんたちが真衣さんを止めていれば、真衣さんはハッキングしなかったかもしれない。 真衣さんが思いとどまっていれば、真衣さんは犯……」


 糸が言い終える前に、シズクが口を動かした。


 「みなさん、何か勘違いをしていませんか?」

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