31bit それだけじゃないけれど


 真衣は虚を突かれたかように頭の中が真っ白となった。


 私の計画は、すべて無意味に終わっていた……?


 いや、計画は成功して……?


 「でも、ニュースでは確かに流出したって……」


 私は、政治家たちの陰謀を暴くためにこの計画を立てた。


 そして、今まさに闇は光の中に晒されているはずだった。


 「流出はしています」


 「ただ、それを行ったのは真衣じゃない。 目の前にあるパソコンがそう物語っているだろう」


 シズクとハジメが真衣をさとした。


 そう、目的は達成されている。


 ただ、達成したのは私ではない。


 だとしたら……誰?


 「じゃあ、誰がやったっていうの……」


 「誰だろうねぇ」


 ハジメは両手を広げて、わからないというジェスチャーをする。


 とてもわざとらしく。


 おそらく、ハジメさんとシズクさんは何かを知っている。


 私がハッキングしようとしていたことも知っていて、それを阻止する技術も持っていた。


 「ハジメさんとシズクさん……あなたたちは一体……」


 真衣が発した小さな声は、扉の開く音とともにかき消される。


 部屋の中に、雛乃と英美里が入ってきた。


 「え? なになに? この重い空気は?! え? 私たち入ってきたらまずかった?!」


 雛乃は全く状況を飲み込めずにあたふたしていた。


 真衣はそんな雛乃の姿をみて、無性に笑いたくなっていた。


 ハジメさんとシズクさん……か。


 うん、おもしろい。


 いつか必ず、私が正体を暴いてみせる。


 真衣の心に、好奇と安堵が同時にやってくる。


 そのために。


 いや……。


 それだけじゃないけれど。


 「ちょうど、私がMANIACを辞めることを辞めることが決まったのよ」


 そう言いながら、真衣は署名した書類を真っ二つにちぎった。


 「おー! なんかよくわからないけど! 良かった良かった! あ、これってやっぱり私のおかげかな?!」


 「違うと思うよ……」


 雛乃と英美里はそう言いながら笑っている。


 どこか祝福をしているようだった。


 真衣は席を離れ、糸の方へと向かう。


 「ありがとう……」


 真衣は照れながらも、糸の目を見ながら言った。


 「え?! わ、私はなんにもしてないよ?! でも……MANIACを続けてくれて、嬉しい」


 糸は満面の笑みをみせる。


 「別に心を動かされたわけじゃないんだからね、『糸こん』なんかに」


 「だから糸こんって言うのやめてー!!」


 「……いやだ」


 真衣はイタズラっぽく微笑んだ。

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