114bit IT社長の記者会見


 いよいよ夏休みが始まった。


 というのに、糸は初日の真昼間からMANIACの部屋で真衣の猛烈授業を受けていた。


 「データを格納し配信するためにサーバが必須となるが、一台あたりのサーバの容量は限られている。 だから、サーバの数を増やしてより多くのデータを格納できるようにしていく。 しかしながら、物理的なサーバを一から増やすというのはかなりの手間がかかり、保守作業も大変。 そこで登場したのがクラウド技術。 オンプレからクラウドに転換することで、おびただしい数のサーバをそれはもう簡単に用意できる。 クラウド技術によって、莫大なデータを一元管理できるようになり、動画のサブスクリプションから人工知能構築のためのビッグデータ解析、そして電子書籍の配信に至るまで、様々な恩恵を受けられるようになった。 そうそう、クラウド化で重要な概念としてDRがあり、設定しておくと人的誤操作や災害による機器故障などのアクシデントからデータを保護できる。 その仕組みは……」


 「鯖の味噌煮、イクラうどん、テンプラにアイスクリーム……頭がクラクラして……ぷしゅぅ」


 糸の頭上にモクモクと水蒸気が立ちのぼる。


 「スパルタ過ぎるよ真衣ちゃん……。 糸っちの脳がパンクしてる……」


 「真衣ちゃん、手加減なしだね……。 普通に難しい……」


 滔々とうとうよどみなく語る真衣の話を、雛乃と英美里も苦笑いしながら聞いていた。


 「そういえば、『サーバ』で思い出したけど、Ikuraグループの新サービス発表ってもうそろじゃない? 電子書籍配信サービス、サバ読み」


 「そうだね。 イクラちゃん、あれから音沙汰ないけど、どうなったんだろう……」


 雛乃に訊かれた英美里は気になってスマホのニュースアプリを開いた。


 「あ、今まさにIkuraグループの社長が新サービス発表の記者会見をしているみたい」


 英美里は生配信中の映像を最大画面にし、音量を大きくした。


 「今回、弊社で新たに発表致しますサービスは、小説から漫画、図鑑から絵本までありとあらゆる本を電子書籍として提供し、皆さまの暮らしをより豊かに、より快適にさせることをお約束致します。 そのサービス名は」


 「気になる! 気になるよ!!」


 生徒糸は真衣先生の難解な授業をすっぽかして英美里の元へと駆け寄った。


 スマホの画面に映るラフな格好の男性が、巨大モニターに右手を向ける。


 すると、モニターにデカデカと新サービス名が表示された。


 「ほへ? サバ読み……じゃない……」


 糸は何とも素っ頓狂な声をあげた。


 「来春、満を持してサービス開始です。 皆さまの『本まぐろ』のご利用を、心よりお待ちしております」 

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