4bit ハジメとシズク


 白衣姿の女性は両手を広げて歓迎していた。


 しかし、女性の明るさに相反して、部屋の空気は冷たく静まり返っている。


 糸もテンションについて行けず、ただ女性の顔を見つめることしか出来ない。


 女性は掛けていた眼鏡を右手の中指でくくっと動かした。


 通常、眼鏡を掛けている人はクール系を連想させるはずなのに、今のところ微塵も感じられない。


 おそらくは身長が低く、そして顔のつくりも幼いため、眼鏡が完全に可愛いアイテムと化しているせいだろう。


 短く髪を切り揃えていて、さっぱりとした印象も受けた。


 「ゴホン、変な空気が流れているようだが……、気を取り直して。 私がハジメでこっちがシズクだ。 私たちはここMANIACの創業者であり、そして全従業員でもある。 つまり、これからは私たちが君たちを担当することになる。 てまぁ、そんな固いことは置いといて、とにかくゆるくやっていくんで、そこんとこよろしくー」


 うん、やっぱりハジメさんはお転婆てんば娘系だな。


 そしてちょっぴり適当……。


 糸はハジメの第一印象をそう決めた。


 そして、シズクさんは……。


 「私はシズクと申します。 これからよろしくお願いしますね」


 あ、めちゃめちゃ優しいお姉さんタイプだ。


 おっとりとした口調にマドンナのような顔立ち。


 長くつややかな髪といい、なめらかに下がる目尻といい、すべてに色気をまとっていた。


 きっと、ハジメさんのおちゃらけた部分をまとめてカバーできる包容力に優れた人物がシズクさん。


 まごうことなき常識人。


 糸がシズクの性格をそう決定づけようとした時。


 「私はセミナーの設立なんてあまり乗り気でなかったのですが……ハジメちゃんがどうしてもっていうから。 それに、私は可愛い女の子同士がイチャワチャしているのを見られれば、それで十分なので……」


 シズクは言いながら、両手を頬に当ててホクホクとした表情になった。


 え……、シズクさん?


 「というわけだ。 もう一度言うが、これからよろしく!」


 ハジメが自分たちの紹介を締めくくった。


 糸は冷や汗がタラリと流れるのを背中に感じた。


 なんというか、先行きが不安でしかないよ……。

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