3bit ようこそMANIACへ


 ここで合ってるよね……?


 スマホの地図アプリは、確かにこの雑居ビルが目的地であると示していた。


 えっと……、二階だから……。


 糸は雑居ビルの中にエレベーターを見つけ、上矢印のボタンを押す。


 ほどなくしてエレベーターはチンと音を鳴らし、その扉を開けた。


 少しだけ錆びれたエレベーターが、糸を乗せて上へと向かう。


 電子レンジのような音とともに、再び扉が開いた。


 あ、本当にあった……。


 廊下の先に見える立て看板は、たしかに『MANIAC』と白黒のゴシック調でデザインされていた。


 糸はゆっくりと廊下を歩く。


 あれ、誰かいる……。


 白衣? 女性? 低身長?


 糸が白衣を着た女性の顔に視線を移したちょうどそのとき。


 バッタリ目が合ってしまった。


 糸は緊張のあまり思わず身体をビクッとさせてしまう。


 「君だね! 最後のひとりは! さぁ、こっちこっち!」


 白衣姿の女性は糸に対して手招きをした。


 糸は手の招かれる方へ一歩、また一歩と進むしかない。


 糸が白衣姿の女性のそばに着く頃には廊下のつきあたりまで来ていた。


 目の前には銀色の扉が設えてある。


「じゃあ、あそこの空いている席に座ってちょっと待っててねー」


 白衣姿の女性は鋼の扉をガチャリと開けてからそう言った。


 そして、そそくさとどこかへ行ってしまった。


 案内された部屋は、およそ学校の教室ほどの広さだった。


 教室でいうところの黒板にあたるポジションには、黒板とほぼ同じ大きさのディスプレイが設置されていた。


 何インチか見当もつかないほど大きい。


 ディスプレイの前には教壇のような台がある。


 これは教室のイメージ通りだ。


 部屋の中央付近には学校でよく見る机と椅子が横一列に四つ並べられていた。


 そのうちの三つの席に、誰かがもう座っている。


 私が最後のひとり……。


 糸は扉側の端から二番目の席におそるおそる座った。


 誰も話さず、沈黙の時間が過ぎていく。


 き、気まずい……。


 結局、興味本位で来てしまったけれど、本当に大丈夫なのかな……。


 糸がそう危惧きぐしたとき、部屋に二人の女性が入ってきた。


 一人は先ほど出会った白衣姿の女性。


 やがて、教壇らしき台の前に二人が並ぶと、白衣姿の女性が高らかに声を発した。


 「ようこそMANIACへ!!」

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