9bit 思っていたのと違う


 「じゃあ、最後に改めてMANIACの活動方針を発表する。 このセミナーはITの分野を学ぶため、こうしてセミナーとしての場所を設けている。 つまり、もしIT分野を学びきったと思ったなら、その時がMANIACの修了となる。 逆に、そう思うまではずっとここにいてもらって構わない」


 ハジメは力強く、そしてはっきりとした口調で言い切った。


 「そうは言っても、月々の受講料が掛かりますよね。 私、高校生だしバイトもしていないから、受講料を払えなくなったら辞めざるを得ないですよ」


 雛乃が口を挟んだ。


 その内容は糸も聞きたかったことだった。


 雛乃ちゃんナイス! 


 糸は心の中で称賛しょうさんする。


 すると、ハジメとシズクは互いに顔を見合わせ、次の瞬間きょとんとした顔で首をかしげた。


 あれ、雛乃ちゃんは別におかしな発言なんてしていないはずなのに?


 糸はどうしてハジメとシズクが妙な反応をするのか気になった。


 「えっと、募集要項に書いていなかったっけ。 MANIACの受講料は無料だと」


 ハジメが言った途端、糸ははたと思い出した。


 あのとき見たバナー広告。


 『気にいられれば、受講料は無料』


 「私たち、お気に入りになったんですか?!」


 糸はいつの間にかそう発言していた。


 「ええ、皆さん、とても可愛らしいですから。 だよね、ハジメちゃん?」


 「うん、みんな可愛い可愛い」


 ハジメとシズクは同時に頷いた。


 どうやら、『可愛い』という理由だけでお気に入り登録されたようだった。


 不純にも思えるが、これで受講料がタダになるのであれば、まぁ、問題はないかな。


 ないはず……。


 糸はこのまま納得していいものやら判断に困ってしまった。


 「だから、とことんITを学ぶことに打ち込んでくれ」


 ハジメは胸を張りながら堂々と言った。


 なんていいセミナーなのだろうか。


 生徒の自主性を尊重し、しかもタダで講義を受けられるなんて。


 最初は胡散臭かったけれど、自分のペースでITを学ぶことができそうだ。


 今まで強張こわばっていた糸の肩の力がすっと抜けた。


 「ということで、だ。 次回までには各自のパソコンを用意しておくから、それを自由に使うように。 あとは、たまに覗きに来るからその時はどんなことをやっているのか教えておくれ」


 ???


 たまに覗きに来る? 


 いつもいるということではないということ?


 「えっと……。 講義で使うテキストとか、今後のスケジュール表とかはないんですか……? ハジメさんはこれとこれを教えて、シズクさんはあれとそれを教えて……」


 「糸っち、何を言っているの? 私とシズクは何も教えないよ? あくまで監督だよ監督。 すべて、君たちだけで学んでいくんだ。 だからテキストもスケジュールも、こちらでは用意なんて一切していない!」


 えっと、それって……。


 「思っていたのとちがーーう!!」

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