201bit 四人なら絶対に


 「私のせいです……。 すべて、私のせいでこのようなことに……」


 三人が糸を追いかけた後、部屋に残っていた律が後悔を滲ませた声で呟いた。


 「ハジメさんとシズクさんから提案をいただいたとき、そのときにきっぱりと断っておけば、このような悲劇にはならなかった……。 四人にあんな思いをさせることにはならなかった……」


 「それは違う。 りっちゃんのせいじゃないよ」


 すぐに否定したのはハジメだった。


 先ほどまで強く握られていた白衣の襟はしわだらけになっており、身体はその熱を感じさせないほどにやつれきっている。


 ハジメはかろうじて立っているような状態だった。


 「一番勇敢なのはりっちゃん、だと私は思っている。 前の世界のりっちゃんが願いごとをしたから、そして今の世界のりっちゃんが決断したから、彼女らの運命は変わったんだ。 運命を変えてしまうことへの迷い、躊躇い、悩み。 りっちゃんはそれらをすべて受け入れたうえで願い、決断した。 それは相当の勇気と覚悟がなければできないよ。 だから、こうなったのはりっちゃんのせいなんかじゃない。 むしろこうなってしまったのは私のせいさ。 私がもっとうまくまとめていれば、私がこの計画を明かさずにごまかしきっていれば……」


 ハジメがすべての責任を自分だけで背負おうとしたとき。


 「ハジメちゃんは、すぐそうやって何でも自分を責めちゃうんだから」


 力なく下がったハジメの右手を、シズクがそっと握りしめた。


 「私たちの正体、そして私たちの計画をMANIACの四人に話している間、ハジメちゃんはずっと怯えていた。 とても怖くて、辛かったんだと思う。 それでも全部正直に明かしたのは、それだけみんなと真剣に向き合いたかったからだよね。 その気持ちは、ちゃんとみんなに届いているはずだよ」


 「シズク……」


 「それに、真相を語った理由はもう一つあるよね」


 シズクはハジメに対して穏やかにほほ笑んだ。


 その笑顔をみたハジメは、やがて降参したように口もとを緩ませた。


 「やっぱりシズクにはかなわないな」


 「えっと……、もう一つの理由……?」


 二人の表情が少しずつ晴れやかにやっているのを不思議に思った律が尋ねる。


 「MANIACができた当初は、計画が順調に進むよう私たちが裏でほとんどサポートしていたんだ。 だけど、気づけばだんだんと私たちのサポートがらなくなっていたんだよ。 今はもう、彼女たちだけで選択し、彼女たちだけで行動している。 そして、彼女たちだけの未来を切り拓いているんだ。 だからね」


 ハジメとシズクは互いに顔を見合わせ、にこやかに笑った。


 「彼女たちなら大丈夫だよ、きっと。 いや……絶対に」


 ハジメの言葉を聞いた瞬間、なぜか律の心もふっと軽くなっていた。


 ……そうか。


 そうだった。


 私も知っているんだった。


 あなたたちに初めて会ったときも。


 あなたたちが誰かのために一生懸命だったときも。


 そして、あなたたちと過ごした楽しいときも。


 だから、私は思っていたんだ。


 MANIACの四人あなたたちなら、運命を変えられるかもしれないって。


 ハジメが全身に力を戻すように背筋をしゃんと伸ばした。


 その横でシズクは嬉しそうに笑みを浮かべている。


 「さ、て、と。 それじゃあもうそろそろ私たちも最後の準備をしますか」


 「そうだね、ハジメちゃん」


 「え? 最後の準備って……?」


 そのとき、急に律の心がざわめいた。


 それはどこか、淋しい予感。


 「律さんにはまだ伝えておりませんでしたね。 私たちの計画は、結果がどのようになっても本日で終了です。 そして、本来私たちはここにいてはいけない存在。 ですから、明日のための準備をするんですよ」


 シズクが言い終えてからまもなく、ハジメが口を動かした。


 「私たちは明日、ここからいなくなる」

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