42bit 高速タイピングトーナメント 番外編


 「雛乃、一回英美里とタイピング勝負してみてよ」


 突然真衣が隣に座っている雛乃にお願いをした。


 「え、私じゃ勝てないよ。 第一、真衣ちゃんにボッコボコにされたのに、同格の英美里ちゃんにかなうはずがないない」


 「大丈夫、とっておきの作戦があるから」


 「なぜだろう、全然信用できない……」


 苦い表情をしながらも、雛乃は英美里の元に向かいタイピング勝負の話を持ち掛けた。


 英美里が快諾したため、タイピングトーナメントのエキシビジョンマッチが実現した。


 真衣は雛乃と英美里に一枚の紙を渡す。


 「じゃあ、二人にはその紙に書いてある文章を1分間のうちどこまで打てるかを競ってもらうよ」


 「あ、ちょっと真衣ちゃん」


 始める寸前で雛乃が真衣を呼び止めた。


 近くに寄った真衣の耳元で雛乃が囁く。


 「で、結局作戦ってなんなの。 見たところお題の文章も普通だし、このままだと私、確実に負けるよ」


 「大丈夫大丈夫」


 雛乃の不安を全く解消しないまま、真衣は二人の前に進んだ。


 「準備はいい? もう、いくよ。 よーい、どん」


 真衣の単調な声とともに、エキシビジョンマッチは始まった。


 英美里はとてつもないスピードで打ち込んでいく。


 雛乃も以前より速くなってはいるものの、やはり到底追いつけない……。


 「雛乃、この人も応援しているよ」


 声を掛けられた方を雛乃が向くと、真衣が傍に立っており、とある一枚の写真を見せていた。


 写真には、カジキマグロを両腕に抱えたエプロン姿のおじさんが映っている。


 「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


 ブーストがかかったように、雛乃の両手が凄まじい勢いでキーボードを叩いていく。


 「しゅーりょー」


 すぐに一分間は過ぎていった。


 「判定の結果、勝者は……雛乃」


 「これがAI(愛)の力……」


 「いやいや、AI関係ない! そして真衣ちゃんはどこからその写真を手に入れたの?!」


 英美里の中では勝負に負けた悔しさよりも、雛乃と真衣のおかしさの方が勝っていた。

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