154bit 終止符を打つ


 「英美里ちゃんの声をコピーしたKoiが高得点を出した時点で、英美里ちゃんにもそれなりのポテンシャルがあるとは思ったけど……そっか。 今の英美里ちゃんは、Koiがコピーした昔の英美里ちゃんとは違うんだね。 もうひとつ上の階段にいたんだ。 だとしたら、Koiはかなわないよ」


 英美里の純真な瞳に見つめられた雛乃は、これ以上の邪推をしなかった。


 それはつまり、英美里が勝利したということを示し、同時に雛乃が二連敗を喫したということを示している。


 「じゃあ最後の勝負だね、最後は糸っち……」


 「ちょっと待って雛乃ちゃん」


 雛乃の進行をさまたげたのは英美里だった。


 「もしMANIACに入っていなかったら、きっと私はイクラちゃんに出会えなかった。 そして、今のように歌うこともできなかった。 雛乃ちゃんはひとつのことに集中して、他のことは切り捨てなきゃいけないと言っていたけれど、実はそうでもないかもしれないよ。 少なくとも、私はMANIACにいて良かったと思っている」


 英美里の声は、揺るぎのない強さを持っていた。


 「それでね、私の勘違いだったら素直に謝るんだけど、雛乃ちゃんの本心は、多分違うんじゃないかな。 本当は、MANIACをやめたくない……んじゃないかな」

 

 「私は、MANIACを……」


 雛乃はそこで口をつぐんだ。


 しばらくの沈黙が続く。


 「まだ、勝負は終わっていない。 まだ、糸っちが残っている」


 「雛乃ちゃん……」


 結局、雛乃は英美里の訴えに対して言及をしなかった。


 あわよくばここで終止符を打てると期待していただけに、英美里は肩を落とす。


 「ありがとう、英美里ちゃん。 あとは私にまかせて」


 いつの間にか、英美里の隣に糸が立っていた。


 糸の真剣な眼差しは雛乃に向けられている。


 「まさか糸っちと戦うことになるとはね、まったくの予想外」


 「私は真衣ちゃんと英美里ちゃんが必ず繋げてくれると信じていた」


 「……。 糸っちにはオセロでもカラオケでもない別のゲームでKoiと戦ってもらうよ。 特に準備するものとかもないから、すぐに始められる」


 天才肌の真衣ちゃんには頭脳バトル。


 人気動画配信者の英美里ちゃんには採点バトル。


 私には、どんな勝負が待ち受けているのか。


 「では、気になるゲーム内容の発表を。 最終決戦は、二択クイズだよ」


 「二択……クイズ……?」


 「そう、出された選択肢の中で正しいものを選ぶだけの簡単なゲーム。 そして、Koiの一番得意なゲーム」

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