127bit はじめまして、私の名前は


 「や、やっほぉ……」


  糸がネットショッピングに失敗してから数日後のこと、今にも倒れそうな様子でMANIACへとやってきたのは雛乃だった。


 「いつも元気いっぱいの雛乃ちゃんが!?」


 「げっそりしている!?」


 「これは……由々ゆゆしき事態ね」


 三人の両目はノロノロとよろめきながら歩く雛乃を追っていた。


 「雛乃、風邪でもひいたんじゃないの?」


 真衣は現在把握でき得る状況からもっとも可能性の高い原因を推測した。


 季節の変わり目は、体調を崩しやすくなる。


 「いや、ただの寝不足だよ……カスタマイズし始めたら止まらなくて」


 「カスタマイズ?」


 どうやら風邪をひいたわけではなさそうだが、いまいち原因がはっきりとしない。


 真衣は雛乃の言葉をそっくりそのまま返した。


 「イクラちゃんから荷物が届いて……ってみんな知らないか。 私、ずっと前から欲しい物があって、ダメ元でイクラちゃんにねだったら、願いごととして叶えてくれたんだよね。 糸っちがキーホルダーをくれた日の夜かな、それが家に届いて。 そこから先はもう私の探求心に火が付いちゃって、徹夜する日々が続いて……ふわぁあ」


 雛乃は口もとを押さえて大きなあくびをした。


 「もしかして、雛乃ちゃんをとりこにしているのって、それ?」


 英美里が気になっていたのは、雛乃がずっと手に持っていた小型端末のことである。


 雛乃がいつも使用しているスマホとは、若干の差異があった。


 「そーそー。 本体はどでかいパソコンなんだけど、ひとまずみんなにお披露目しようと思って、急ごしらえでその一部をこの端末にインストールしてみた」


 「インストール……」


 糸はだんだんと雛乃の話についていけなくなっている。


 「あれこれ説明するよりも、実際に動かした方が早いね。 糸っち、この端末に『はじめまして』って声を掛けてみてよ」


 「これに……? えっと……は、はじめまして」


 糸は緊張しながら雛乃の言うとおりにした。


 すると。


 「やぁ! あなたは糸っちだね?」


 端末から聞こえたのは、明るく溌溂はつらつとした女の子の声。


 姿も形もないその声は、流暢にこう言った。


 「はじめまして、私の名前はNishiki Koi! これからよろしくね!」

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