11bit 黒い箱だよねこれ


 はぁ、大丈夫かな……。


 糸は部屋に入る前から気が重くなっていた。


 初めてのセミナーから特に何の進展もないままこの日が来てしまった。


 これからはハジメさんもシズクさんもいないらしいし、どうやって過ごせば……。


 はぁ……。


 糸は二度目の溜息をついて、やっと部屋の扉を開けた。


 「あ、糸っちだ! やっほー!」


 「や、やっほぉ…?」


 相変わらずの雛乃テンションに糸は驚くばかり。


 ただ、この明るさのおかげで気持ちがいくらかやわらいだのは事実だ。


 って、ん……? 


 また私が一番最後だったんだ。


 糸以外の三人はすでに席に座って、机の上にあるパソコンをいじっていた。


 ハジメさんとシズクさんはきちんと用意してくれていたんだ。


 糸は感心しながら自分の席に座った。


 私の机の上にもパソコンが……。


 「って、私のパソコンがないっ!」


 糸の机の上に置いてあったのは、黒くて重そうな箱だけだった。


 なんなんだこの禍々まがまがしい箱は……。


 そうだ、わかった。


 きっとハジメさんの嫌がらせに違いない。


 糸の脳裏にハジメのニヤついた顔が思い浮かぶ。


 「え、あるじゃん、ちゃんと」


 「へ?」


 雛乃が不思議そうに問いかけてくるが、糸も不思議そうに返事した。


 「これがパソコンだよ」


 雛乃は禍々しい箱を指さした。


 「え、これが……パソコン……?」


 「あー、たぶん糸っち勘違いしているね。 糸っちが想像しているのは、ディスプレイやマウス、キーボードまで揃った姿でしょ。 実はパソコンの本体はこれだけなんだよ」


 「ほやぁ……」


 糸はその手の知識を一切持ち合わせていなかったため、何ともマヌケなリアクションしか取れなかった。


 「糸っちって……、ちんちくりん説あるね」


 「……、雛乃ちゃんまでやめてー!」

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