141bit もうリタイア?


 MANIACに通いたくない理由を雛乃ちゃんは語らなかった。


 けれど、おそらくKoiちゃんが何らかの形で関与しているのだろう。


 そして、私はそのKoiちゃんと戦わなければいけなくなった。


 本来なら、純朴な声の持ち主であるKoiちゃんに後ろめたさを覚えるはず。


 ゲームで幼稚園児相手に大人げなく勝ってしまう高校生のような。


 しかし、Koiちゃんの実力を知っている今。


 私の置かれている立場は、幼稚園児サイドだとわかる。


 AIのKoiちゃんに勝つには、最大限の力を発揮するしかない。


 糸は気を引き締めた。


 「さてさて、誰からKoiと勝負する?」


 雛乃が三人を急かした。


 「私が先鋒せんぽうで行かせてもらう」


 名乗りを上げたのは真衣だった。


 「三人全員がKoiに勝たなければいけないんだから、トップバッターに必要なのは勝利の気運を高めること。 なら私が相応ふさわしい」


 「どうして真衣ちゃんが適任?」


 てっきり真衣は大将気質だと思っていた糸が不思議そうに尋ねた。


 「だって、私が負けるわけないから」


 真衣はあっさりとことも無げに答えた。


 そこには大将をも上回る大将軍の風格があった。


 「じゃあ最初の相手は真衣ちゃんで決定だね。 真衣ちゃんにはこのゲームで勝負してもらうよ」


 雛乃がそう言うと、今までディスプレイ全体を使用していた映像が小さくなり左端へ移動して、ワイドショーのワイプのようになった。


 そして、代わりにディスプレイの画面を大きく埋めたのは。


 芝生みたいな緑色と縦横線で仕切られたマス目。


 「第一回戦は有名なボードゲーム、オセロだよ」


 画面が切り替わってから程なくして、スピーカーからアーケード風ミュージックが流れた。


 「頭脳明晰な真衣ちゃんにはうってつけのバトルだと思ってね。 急ごしらえだけどオセロゲームもちゃんと作ったんだ」


 雛乃は小窓から得意げな表情を見せた。


 一方で真衣はというと、ただ画面をじっと眺めている。


 「あれ、真衣ちゃんの顔がどことなく引きっているようだけど……。 あ、もしや怖気おじけづいてもうリタイアを考えていたりして?」


 「いや……そうじゃなくて……。 オセロって、どんなゲームなの?」


 「……、そこだったのね……」


 雛乃の嘆息が愉快なBGMに混じる。


 緒戦から波乱の幕開けとなった。

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