20bit いったい何者なの?


 速い、速すぎる。


 その形容以外が思いつかないほどに、英美里ちゃんと真衣さんのタイピングスピードは常軌じょうきいっしていた。


 二人ともいっさい画面から目を離さずに、無言でキーボードを打ち続けている。


 「今は何をしているんだい?」


 突然声がすると思えば、いつの間にか糸の隣にハジメが立っていた。


 「ハ、ハジメさん?! どこから来たんですか?!」


 「いやいや、普通に扉から入ってきたよ。 気づかなかったの?」


 気づかなかった。


 それほどに、自分はこの戦いに釘付けになっていたらしい。


 「この四人の中で誰が一番速くタイピングできるか競っていたんですよ。 私、ブラインドタッチできるから、てっきり勝てると思ったのに」


 雛乃はしょんぼりとしながら言う。


 「ブラインドタッチ……?」


 糸は聞き覚えのない単語を復唱した。


 「キーボードを見ないで打ち込むことさ。 ほら、二人ともずっと画面に集中しているでしょ? あれは、キーボードのどこに何のキーがあるかを把握しているからなんだよ」


 ハジメはよどみなく解説する。


 「そして、彼女たちが速い理由はそれだけじゃない」


 「それ……だけじゃない……?」


 糸も雛乃も不思議そうにハジメを見返した。


 「雛乃ちゃんもブラインドタッチができるんだよね。 なのに、あの二人のスピードには追いつけない。 なぜなら、彼女たちは『かな入力』で打っているからさ」


 「え?! ローマ字打ちじゃないんですか?!」


 雛乃は驚きながら英美里と真衣の姿を交互に目で追う。


 「例えば、『か』という文字を打つとき、ローマ字打ちなら『k』、『a』と二回打たなければいけない。 だが、かな打ちであれば、『t』のキーだけでいい」


 た、たしかに……だけど……それだと……速い……?


 「もちろん、普段ローマ字入力で慣れている人にとって、かな入力は打ちづらくてしょうがないから、ほとんどの人は使わない。 だが、おそらくあの二人は両方の打ち方をマスターしている。 場合によって使い分けているんだから、その技術力は相当だね」


 英美里ちゃんと、真衣さん……。


 あの二人はいったい何者なの……?


 糸がそう思ったときだった。


 「できた!」 「できた」


 二人の声が、見事に重なった。

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