202bit 駆ける


 早く……早く糸ちゃんの元へ。


 はやる気持ちを募らせた英美里は、一目散に建物の外へ出た。


 その瞬間、英美里の視界すべてを埋め尽くしたのは。


 「なにこれ……、すごい雪……」


 夜空から大粒の雪がざんざんと降り注いでいる。


 道路も、屋根も、街灯も、みんな雪に覆われていた。


 夜と雪の色だけに塗り替えられた街は、ひどく寒く、冷たい。


 「雪の予報があったとはいえ、まさかこんなに降っているなんて」


 「糸っち、上着も何も持たずに部屋を出ていったのに……」


 真衣も雛乃も表情を変えた街に戸惑っていた。


 「一刻も早く、糸ちゃんを見つけないと」


 「うん……だけど、スマホも置き忘れていった糸っちをどうやってさがそう……」


 「糸が行きそうな所を片っ端からさがすしかないでしょう。 とりあえず私は糸の家に行ってみる」


 「真衣ちゃん、糸ちゃんの家がどこか知っているの?」


 「……私、糸に年賀状を送った人だよ?」


 真衣は自嘲ぎみに、そして自分の技術が少し役に立ったと言わんばかりに口角を上げた。


 「そっか……。 じゃあ、真衣ちゃんは糸ちゃんの家をお願い」


 真衣の方を向く英美里の隣で、雛乃はガサゴソとポケットをさぐっていた。


 やがてポケットから出た左手には、小型端末が握られている。


 「Koi、糸っちが行きそうな場所をどんどん教えて」


 「わかったよ雛乃! 私にまかせて!」


 Koiが明るい声ですぐに答えた。


 「雛乃ちゃん、Koiちゃん……」


 「私も私なりの方法で糸っちをさがしてみるよ。 大丈夫、私たちなら必ず糸っちに会える」


 雛乃は英美里に優しくほほ笑んだ。


 もしかして……。


 真衣ちゃんも、雛乃ちゃんも、焦っている私を落ち着かせようとして……。


 「うん、そうだね。 ありがとう、二人とも」


 英美里はもう一度パーカのフードをかぶる。


 そして三人はそれぞれ別の方角へと駆け出した。

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