84bit ノートに書かれた秘密


 「あ、真衣ちゃん、ちょっといい?」


 クラスメイトの話し声と放送部のチョイスしたヒップホップが入り混じるお昼休みの教室で、入り口付近の席に座る真衣は自分の名前を呼ぶ声に気づいた。


 「どうしたの、英美里?」


 真衣は開かれた入り口からひょっこりと顔を出す英美里と目が合った。


 英美里がおどおどしながら教室の中に入る。


 「実は真衣ちゃんの世界史のノートをみせてほしくて……。 ほら、私のクラスと真衣ちゃんのクラスは同じ世界史の先生だったはずだから、学校に通えていなかった間の板書を写させてほしくて」


 「ああ、うん。 いいよ」


 真衣は机の中をゴソゴソと手で探りながら、複数のノートをとりだし、その中から表紙に『世界史A』と書かれたノートを選び、英美里に手渡した。


 「ありがとう!」


 英美里は何気なくノートをペラペラとめくった。


 そのとき、あるページで英美里の手が止まった。


 そのページにはたったひと言だけ『大場糸』と書かれている。


 世界史の授業中に真衣ちゃんが書いたのだとしたら……これってもしかして、真衣ちゃんは糸ちゃんのことを気にかけているってこと?!


 真衣ちゃん、糸ちゃんには素っ気ない態度をとっているけど、あれは全て『好き』の裏返し……?!


 「どうしたの? 急にソワソワして。 なんか変なことでも書いてあった?」


 「え?! ううん?! なんでもないよ!」


 英美里はノートをパッと閉じ、真衣にそのまま返した。


 「あれ? いいの? 借りなくても?」


 「う、うん! やっぱり大丈夫! ありがとね!」


 英美里はそそくさと真衣の教室を出た。


 知ってはいけない秘密を知ってしまったかもしれない……。


 英美里は廊下を早歩きで進んだ。


 あと真衣ちゃん、全然板書とってなかった……。


 りっちゃんにノートをみせてもらおう。

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