195bit きっと素晴らしいに決まっている


 「まず一つ目の条件。 私たちは100年前からやってきた人間だから、現在の世界がどうなっているのか、とんとわからない。 だから、律さんのお願いを叶えるための準備期間が欲しいんだ。 この世界がどんな技術に囲まれているのか、ある程度把握してから過去に戻ろうと思ってね」


 一はどこかソワソワしながら律に伝えた。


 「あらあら、準備期間ってごまかしているけど本当は一ちゃん、知的探求心が抑えられないんでしょ? 律さんが見せてくれた小型の機械にも興味津々だし」


 零がニコニコしながら一を見ている。


 「け、決してそんなことは! ないこともないけど……。 と、とりあえずだ、この世界を色々調べている間、しばらくここにいてもいいだろうか。 その……私たちはいわば無一文で……」


 「そんなこと、お安い御用ですよ。 運よく、ここは旅館ですから部屋も簡単に用意できますし、準備が整うまでずっといらっしゃって構いません。 私はあなたたちを全力でサポートします。 それが、私にできる最大限の祈りですから」


 律は迷いのない口調で答えた。


 「若いのになんともたくましい……。 よし、条件の一つ目はクリアだ」


 「あんなお願いを叶えるためなので、どんな条件が要求されるのかと思ったのですが、正直拍子抜けです。 さぁ、もう一つの条件ってなんですか?」


 「それは心強い。 じゃあ二つ目の条件だけど、私たちが律さんのお願いを叶えるために再び過去へ戻って世界に何かしらの影響を与えるとする。 するとだ、今この時間というのはもう存在しなくなるだろう。 今、私と律さんが話しているこの時間も、律さんが悲しみに暮れた時間もぜんぶ消えてなくなるだろう。 私たちがやろうとしていることはつまるところ、運命を丸ごと変えようとしているんだ。 果たして、律さんにはその覚悟があるかい? この運命を投げ捨てでも、律さんはお願いを叶えたいのかい?」


 一は律の目を見つめた。


 「それは……」


 律はすぐに答えることができない。


 一さんと零さんが過去に戻ってお願いを叶えたとしたら、今の私はもう存在しなくなる。


 それは、とっても怖くて、とっても寂しい。


 だけど……。


 「私は大丈夫です。 なぜなら、お願いが叶った未来は、きっと素晴らしいに決まっていますから」


 「……どうやら、ちゃんと決心もついているようだね」


 「はい。 ですが、これはあくまで今の私の意見です。 なので、過去に戻ったときに、もう一度私に会ってください。 もしもその時の私が、お願いを叶えることを拒絶したなら、叶えなくていいです。 だって、その世界では、その私が正しいんですから」


 律は一の目を見つめ返した。


 「決まりね、一ちゃん」


 一の隣にいた零が、ゆっくりとほほ笑んだ。


 「……ったく、ちっとは怖気づくかと思ったんだけど、大した信念だよ。 わかった、あとは私たちにまかせなさい」


 「それじゃあ……!!」


 「ああ。 叶えるよ、りっちゃんのお願い」


  一は口角を上げながら言った。


 「あ、ありがとうございます!!」


 思わず律は何度もお辞儀をしてしまった。


 「まぁまぁ、これから長い付き合いになるわけだし、そんなにかしこまらないで。 よろしく頼むよ、りっちゃん」


 「は、はい! こちらこそ!! って……、いつの間にりっちゃん呼びに……」


 「だって、親友にそう呼ばれていたんでしょ? 親友の話をしている間、そのあだ名を声に出すたび、りっちゃんがほんのり嬉しそうだったからさ。 よほどお気に入りなんだね」


 あなたのことを話していたとき、あなたとの思い出が浮かんで、つい顔に出てしまっていたんだ。


 「……はい、とてもとっても大好きなんです」


 あなたが私のことをりっちゃんと呼んでくれたから、私はあなたのことをいとっちと呼んだんだよね。


 待っててね、いとっち。


 必ずあなたを救ってみせるから。

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