196bit 優しいワガママ


 「ねぇ一ちゃん。 なんで一ちゃんは、律さんのお願いを叶えようと思ったの?」


 律が仕事に戻った後、二人きりになった一と零は向かい合わせで座りなおしていた。


 「あれ、零ならわかっていると思ったんだけど」


 「一応の答えはあるの。 だけど、ちゃんと確かめておきたくて」


 「そっか。 なぜりっちゃんのお願いを叶えようと思ったのか、その理由はさ、私がタイムマシンを作ろうとした理由と同じなんだよ。 誰かを幸せにするために。 私たちがタイムマシンを使ってりっちゃんのお願いを叶えれば、必ず誰かに幸福が訪れる。 私はそう確信したんだよ」


 一は横を向いて、窓の外をみた。


 目に映るのは窓の外の景色、よりも遥か遠くの世界。


 「うん、私の考えた答えとおんなじだったね。 やっぱり一ちゃんはわかりやすい」


 「な、なにをーー?!」


 思った通りの反応をした一に対して、零は穏やかに笑った。


 「そういえば零に頼みたいことがあったんだ。 これから私たちはりっちゃんのお願いを叶えるための計画を考えなくてはいけないけれど、ちょっとしたワガママを聞いてほしくて」


 「ワガママ?」


 「さっき、りっちゃんが語っていた話の中で、今回の目的である親友以外に、四人の登場人物がいたの、覚えている?」


 「登場人物? えっと、一人、二人……そうね、四人いたわ」


 「私たちが過去に戻ったときに、その四人も何とかしてあげられないかな」


 「……なるほどね」


 「いや、欲張りなのはわかっているさ。 だけど、その四人の運命も変えることによって、少なからず親友の運命にも変化があるんじゃないかと思ってね」


 一は遠慮しがちに、どうかなと呟いた。


 「うん、そうしようか」


 「ありがとう、零」


 「いえいえ。 それにしてもやっぱり一ちゃんは……優しいね」


 「う、うるさい!!」


 それぞれの笑い声が、部屋を満たしていく。


 ふたつの心が繋がり、そして、ひとつの思いが創られていく。

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