138bit すんなりといくはずがない
真衣は購買で買ってきておいた焼きそばパンをひと口かじった。
お昼休みも後半に差し掛かると、教室内の人影はまばらである。
自席に座る真衣の目の前には、糸の英美里の冴えない表情があった。
「雛乃ちゃん、どうしちゃったんだろう」
「学校には来ているようだけれど」
二人の心配の矛先は、一人の少女に向けられている。
「Koiの研究にご執心なんじゃないの?」
ぱくぱく、もぐもぐ。
「うーん、それならいいんだけど、いくら忙しいとはいえMANIAChatに返信くらいは……」
「英美里の言い分はもっともね」
ぱくぱく、もぐもぐ。
「ただ単に気づかなかっただけかもしれないけど、さっき雛乃ちゃんと廊下ですれ違って、声を掛けてみたんだけど……、無反応だった」
「それはお気の毒」
もぐもぐ、ぺろり。
真衣はパンを平らげると、透明な包装を丹念に折り畳み、最後に縛ってコンパクトにした。
「何はともあれ、私たちに一切連絡を寄越さないのはいかがなものか、とは思う」
真衣は腰を上げ、教室の後ろに設置されているゴミ箱まで移動する。
やがて、プラスチックのちょうちょはハラリと舞った。
「雛乃ちゃん本人に真相を確かめたいけど……」
「なかなかね……てあれ? 真衣ちゃんは?!」
糸は教室全体を見渡してみるが、真衣の姿はどこにもない。
ゴミ箱まで行って、それから……。
糸は教室後方のドアが開けっぱなしになっていることに気がついた。
「英美里ちゃん、もしかしたら真衣ちゃんが!」
「雛乃ちゃんの教室はあっちだよ!」
糸と英美里は大急ぎで隣の教室まで走った。
そして、予想の通り真衣は雛乃の席の傍にいた。
いきなり押しかけて良いものか、と躊躇う余裕もなく糸と英美里は二人の元へ駆け寄る。
「私まどろっこしいのが苦手だから、単刀直入にきく。 雛乃、どうしてMANIACに来ないの? どうして連絡をくれない?」
「まさか全員が来ちゃうなんて……そうだよね、そうすんなりといくはずがないよね」
雛乃の口調は淡々としていた。
「たしか今週の日曜日、みんなMANIACに集まるんだよね」
雛乃が示す日曜日とは今日から三日後のことで、MANIAChatにその旨のやり取りがなされていた。
「行くよ、そのときは私も行くから。 そのときにね」
雛乃は椅子から立ち上がる。
「どういうことなの雛乃ちゃん? 今話せない事情でもあるの?」
「ごめんね糸っち、もう理科室に行かないといけないから」
雛乃は教科書とタブレットを手に持ち、何事もなかったかのようにその場を去った。
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