45bit 廊下に斜陽と叫び声


 吹奏楽部の音色と野球部の熱声ねっせいが入り混じる夕暮れの校舎で、糸はひとり長い廊下を歩いていた。


 前期中間テストの結果が思わしくなく、見事に高校の洗礼を浴びた糸は、MANIACがないときは放課後教室に残って勉強をすることを決意していた。


 勉強を終え、下校する途中だった糸はふと歩みを止め、廊下の壁に目をやる。


 壁には縦長の画用紙が画びょうで留められているのが何枚かあり、それぞれに前期中間テストの科目ごとの順位が載っていた。


 うぅ……今回の数学は特に難しかった……因数分解とか、こっちの頭が分解されるよ……それでも頭のいい人はそれなりに点数を取るんだろうな……って200点満点の人がいるよ! きっと私とは関わることのない秀才なんだろう……えっと、名前は……あらいひなの……?!


 「いや~、今回のテスト全然駄目だったなぁ……」


 見慣れた名前と聞き慣れた声が同時に訪れたため、混乱のあまり糸の目はまんまるになった。


 「雛乃……ちゃん?」


 「……え?! 糸っち?!」


 「私たち同じ学校だったの?!」


 思えば、MANIACのメンバーは全員高校一年生で、同じ学校である可能性は十分にあった。


 しかし、全員が私服で通っていたことや、プライベートの話をしないこともあり、てっきり違う学校だと思っていた。


 それにしても、今まで学校で出会わなかったのはあまりに偶然過ぎる気もする……。


 糸は頭の中を整理しつつ、気持ちを落ち着かせる。


 雛乃ちゃんの先ほどの発言……。


 テストが全然駄目だったと言っていたような……。


 「雛乃ちゃん、あの難しかった数学満点じゃん! どこが駄目なの?!」


 「私、昔から数学だけは得意なんだよね。 その代わり、他の教科はズタボロだから、平均したらそんなんでもない……」


 雛乃は話しながらみるみると肩を落としていった。


 な、なるほど。


 雛乃ちゃんの落ち込み具合からすると、他教科は相当ひどかったらしい。


 とにかく今は話題を変えなければ。


 「そ、それにしても偶然だよね。 まさか同じ高校だったなんて……、もしかしたら真衣ちゃんや英美里ちゃんも同じだったり~、なんちゃって」


 糸はその場に流れる思い空気を跳ねのけようと明るく振舞った。


 すると、雛乃はゆるゆるとしたモーションで壁に指を向けた。


 雛乃が指している方を見ると、総合順位が載っている画用紙があり、栄えある第一位の名前に見覚えがあった。


 「あれ、ピヨ乃に糸こんだ」


 制服姿の真衣が二人の前に現れる。


 「まさかの真衣ちゃんも同じ?! そして圧倒的学力格差だよ!!」


 糸の叫び声は茜色の廊下全域に響き渡った。

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