167bit サンタはいるよ


 「高校生にもなると、サンタさんってやってこないよねー」


 暖房のきいたMANIACの部屋で、雛乃はスマホに映るネットニュースを見ながらそう嘆いた。


 子どもが喜ぶプレゼントから、彼氏にもらって残念だったプレゼントまで、クリスマスに関する特集記事はここ最近多い。


 「雛乃ちゃんにはサンタさんもう来ないの?」


 不思議そうな顔で雛乃にきいたのは糸だった。


 そして、英美里もまた糸とまったくおんなじ表情で雛乃を見つめている。


 「ド天然ピュアピュアコンビ……」


 自分の発言の意味を二人は理解していない、と雛乃は即座に察した。


 すると、二人の席とは逆の方向からボソッと声がした。


 「サンタはいるよ」


 「……え?」


 驚きのあまり、雛乃はうまく反応することができなかった。


 理由はただひとつ、その声の主がサンタクロースなんてちっとも信用していなさそうな真衣だったから。


 「い、意外だね。 真衣ちゃんも少しは純粋なんだ……」


 「それはどういうことなの雛乃」


 「ひあっ! なんでもないよっ!」


 「……、たった一人で一夜にして世界中の子どもたちにプレゼントを与える。 サンタクロースの定義がこうだとしたら、サンタは存在する」


 たしかにサンタさんはトナカイの率いるソリに乗って冬空を駆け回り、子どもたちに向けてプレゼントを配っているイメージだけれど……。


 それはファンタジーであって、現実には不可能で。


 だけど、あの真衣ちゃんが断言するっていうことは……。


 もしかして。


 「ちなみにそのサンタさんって、どうやってプレゼントを贈るの?」


 「子供たちの持っているスマホに『1万円をプレゼント、今すぐここをクリック』と書いたメールを送ればいい」


 真衣ちゃん、それって……。


 「詐欺メールじゃん! 夢も希望もないよ!」


 「……なら100万円ではどうだろう」


 「いやそこじゃなくて!!」


 それに子どもたち全員が全員スマホを持っているわけじゃ……。


 雛乃は言いかけて、口を閉じた。


 今はまだ全員がスマホを持っているわけではないけれど。


 いつかはそうなる日がきっとあって。


 そのすべてのスマホに素敵な手紙メールを一斉に送信プレゼントすることができたなら。


 それはもう、サンタさんがいるってことになるんじゃないのかな。


 「雛乃はサンタを信じていないの?」


 真衣にきかれた雛乃は、猫のように背筋をぐっと伸ばした。


 「一度も会ったことないから、会ってみたいな。 サプライズもできて子ども好き……さぞかしイケオジに違いない!」


 「雛乃の目的はプレゼントじゃなくてそっちだったのね……」

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