33bit 突然の誘い


 「うんうん、みんな少しは絆が深まったようだね。 それじゃあ今日のセミナーは課外講義ということで……これから古匠こしょう温泉に行くぞー!」


 右手を挙げてガッツポーズを取りながら言ったのはハジメだった。


 それまで賑やかだった部屋の中が、一瞬にして静まり返る。


 ハジメの突拍子のない提案に誰も反応することができていなかった。


 「………あの、なんで温泉なんですか?」


 やがて英美里が静寂の中に疑問を投げつけた。


 「それはなぁ、長時間パソコンを操作しているとなぁ、まずは目が疲れてくるだろう。 そしてお次は肩が凝ってくる。 そうなると次第に頭痛もしてきて……というように、実は無意識的に身体的負荷がかかっているわけで。 その負荷をそのままにしてはいけない。 そこで登場するのが温泉でありまして。 古匠温泉には疲労回復、筋肉痛軽減、リウマチ云々……」


 「要するに、ハジメちゃんが温泉に行きたいからってことよね。 私は行ってもいいけれど……みなさんもどうでしょう?」


 シズクはハジメがぶつぶつ言うのを遮って四人を誘った。


 「たしか古匠温泉ってこの近くにある古い温泉旅館ですよね。 存在は知っていたんですけど、実際に行ったことはないので興味あります」


 ハジメの突然の誘いにもかかわらず、糸は乗り気な反応をした。


 「おお! さすがは糸っち、わかっているねぇ。 他のみんなはどうだい?」


 ハジメは残りの三人に熱い視線を送る。


 「糸っちが行くっていうなら……私も行こうかな! セミナーと全然関係ない気がするけど!」


 雛乃も元気よく賛同する。


 「お、温泉はちょっと……」

 「た、たしかこれから用事があった気が……」


 一方で英美里と真衣は難色を示した。


 「えー、せっかくだし四人で行こうよー! どうせMANIACに来たってことは特に予定はないってことでしょー。 ほらほら、二人とも~」


 陽キャラ雛乃のスキルにより、英美里と真衣は強引に手を引っ張られる。


 「ハジメさん! 私たち四人とも行きます! レッツ! テイク ア バース!」


 「テイク ア バース!」


 雛乃とハジメがノリノリで教室を出る。


 「ま、待ってー!」


 糸は置いてかれないように必死に後をついていった。

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