32bit 距離を縮めたかっただけなのに
糸はハジメから、午後五時三分に必ずここに来るようにと言われていた。
なぜ五時ぴったりじゃないのかを問い質しても、「カップラーメンが偉大だから」というよくわからない返事をするばかりだったため、結局特に気にすることもなく言われたとおりにMANIACへと到着していた。
もしかしたら、部屋で真衣さんと出会ったのは、偶然ではないのかもしれない。
そう思いながらも、糸はもう考えることを辞めていた。
ついさっき、真衣さんがMANIACを続けてくれることが決まったからだ。
雛乃ちゃんや英美里ちゃんも喜んでいるし、もちろん私も嬉しかった。
輝くような才能を持っている真衣さんから色々なことを教えてもらいたい。
恐れ多く、馴れ馴れしくもあるが、糸は率直にそう思った。
そして今、私は真衣さんにからかわれている。
まったく、糸こんって言われるとおでんの具しか思い浮かばない。
ニックネームとして、あまり可愛くないと思うけど……。
でも、ひとつ気づいたことがある。
それは、今まで真衣さんは「糸こんちゃん」と呼んでいたけれど、今は「糸こん」と呼んでいる。
いや、糸こんにゃくはさておき。
『ちゃん』が取れたということは、とどのつまり、距離が縮まったということではないだろうか。
真衣さんがそのつもりなら、私も距離を縮める努力をしなければいけない。
だから、これからは真衣『さん』ではなく、真衣『ちゃん』にしよう。
あ、でも、それはいきなりで図々しいかな……。
いや、距離も縮めたいし……。
真衣『さん』、真衣『ちゃん』、真衣『さん』『ちゃん』『さん』……。
えーい! 勢いだ!!
「もーー! 嫌だじゃないでしょ! 真衣にゃん!!」
「…………にゃん??」
か、噛んでしまった!!
糸の顔がカーーっと熱くなる。
「……あ……えっと、その、は、話せば、長くなりまして……」
「お! 糸っちの反撃だな! いいじゃん、真衣にゃん」
雛乃が両手で招き猫ポーズをしながらおちょくる。
「だ、誰が真衣にゃんよ!!」
真衣は素早く糸に背を向け、必死に両手で顔を扇いだ。
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