17bit 仲良くなるきっかけ


 「第一回 高速タイピングトーナメント???」


 雛乃の突飛な提案に、糸はぽかんとしてしまった。


 「ここにいる四人のうち、だれが一番速くタイピングすることができるかを決める、まぁ、簡単なゲームよ。 席の関係もあるし、一回戦目は私と真衣ちゃん、糸っちと英美里ちゃんで勝負。 それぞれで勝った二人が決勝戦を行い、その戦いで勝った者が記念すべき第一回チャンピオンとなるのだ」


 タイピングといえば、キーボードで文字を打つ動作のことだが、その速さを競うって……。


 私、絶対勝てない!!  


 糸は勝負をする前から白旗をあげていた。


 かろうじてローマ字入力の方法はわかるが、キーボードを見ながら一つずつゆっくり押さなければならないレベルだ。


 それに、あの雛乃ちゃんの余裕そうな顔……。


 「私、一時期パソコンでチャットすることにハマっていて、タイピングの速さには自信があるんだよねぇ」


 やっぱり。 


 「ゔぅぅ……」


 雛乃の態度に気圧され、糸は一層委縮してしまう。


 「だいじょーぶだいじょーぶ! ただ楽しく勝負するだけだから。 ほら、みんなと仲良くなりたいんでしょ?」


 そうか、このトーナメントをするそもそものきっかけは、ここにいる四人と繋がりを作るということだった。


 雛乃ちゃんは、ゲームという形で友好を築こうとしている。


 「うん……そうだね! 雛乃ちゃんナイスだよ! 英美里ちゃんも参加してくれる?」


 糸は元気を取り戻し、隣にいる英美里を誘った。


 「う、うん……。 頑張る……」


 英美里の頭がこくりと頷いた。


 「ありがとう! じゃあ、さっそく……」


 そうだ、忘れていた。


 こんなトーナメントできないのではないか、とどこか心の片隅で思っていた理由。


 それは目黒真衣さんの存在。


 こんななかばふざけたゲームに、真衣さんが参加するなんて……。


 「真衣ちゃんもやるよね? タイピングトーナメント」


 糸が躊躇ためらっているうちに、雛乃は隣を向き、真衣をいとも簡単に誘っていた。


 真衣さんが参加するなんて……ありえ……。


 糸が諦めようとしたその時、真衣は落ち着いた口調で、


 「いいよ」


 と言った。

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