56bit ふたつの星


 それは、暗闇の中で微かに瞬く思い出。



 「麻里亜まりあちゃん! コメントが来てるよ! コメントが!」


 「ほんと?! 見せて見せて!」


 二人は部屋の中に入るやいなや、すぐにパソコンの前へ立った。


 「どれどれ……お二人の歌声にとても感動しました、これからも応援しています、動画投稿頑張ってください……だって!!」


 麻里亜と英美里は両手をつないで飛び跳ねた。


 すると、部屋の外から「静かにしなさーい」という声が聞こえてきた。


 「ごめーんおかあさーん」


 英美里は少し大きめの声で返事をした。


 「ごめんごめん、ついうっかり。 あんまりにも嬉しくて」


 麻里亜は両方の手のひらを顔の前で合わせている。


 「いやいや、これは飛び跳ねて当然だよ」


 英美里は笑いながら言った。


 「それにしても、コツコツ動画投稿をして3か月、やっとコメントが来るようになったね」


 「もう大変だったよ。 中学校生活最後の思い出を作りたいんだ! とかいっていきなり麻里亜ちゃんに誘われて。 最初は私、嫌だったんだよ、人前に出るのとか苦手だったし。 だけど麻里亜ちゃんがどうしてもってしつこくて」


 「そうだっけ?」


 麻里亜はとぼけたような顔をする。


 「でも、いざやってみると……うん、やって良かったよ」


 「でしょでしょ~」


 英美里はパソコンに映っているコメントをもう一度見た。


 物心ついた頃からよくパソコンで動画を観ていた私にとって、動画投稿者は憧れの存在だった。


 たくさんのエールをもらって、たくさんの笑顔を与えて。


 でも、私には何の取り柄も見つけられなくて、性格も臆病で。


 私は絶対になれない、そう思っていた。


 けれど、麻里亜ちゃんのおかげもあって、私は今、憧れの存在に一歩近づけたような気がする。


 手を伸ばしても届かないほど遠くにある、煌びやかな輝き。


 「なにパソコンを見つめてぼーっとしているの? 有名人さん」


 「コメントひとつ来たくらいで有名人だなんて、意識過剰にもほどがあるよ。 でも、このコメントをくれた見知らぬ誰かのために、私はこれからも精いっぱい頑張りたいな」


 「いいこと言うじゃん。 頼りにしているよ、えみりすく」


 そう言いながら、麻里亜はクスクスと笑っている。


 「なんか、その名前改めて言われると恥ずかしいな……」


 「そう? かっこいいと思うけどな、えみりすく」


 「もー麻里亜ちゃん絶対からかっているでしょ!」


 「そんなことないよ~」


 「ふーん、じゃあこれからも宜しくね、まりあすた」


 英美里の心は暖かい光で満たされていた。

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