192bit 変わってしまった世界の中で


 「そこの建物の中に新聞があったから、日付だけ確認してきたけど……、どうやら私たちは本当に100年後の1月26日にやってきたらしい」


 「まだ新聞の概念が残っていてよかったね、一ちゃん」


 「うんうんよかったよかった……って違う!! 10年後ならまだしも、100年後なんて何もかもが変わり過ぎだ!! さっきの建物だって自動で扉が開いたぞ?! どういう仕組みなんだ?! それに、よくわからない小型の端末をみせるだけでお金を払わずに売り物を買っていた……あの端末めっちゃ欲しいんだけど!!」


 「一ちゃん、目がキラキラしている……。 とりあえず、看板の住所をみるかぎり、私たちがいるこの場所は100年前研究室があった場所、ということになるんだろうけど」


 零はあたりをぐるりと見渡した。


 高くそびえる建造物、猛スピードで進む乗り物、洋服だらけの通行人。


 「当然のことながら、私たちの知り合いはもういないだろうし……なんたって100年後だからね」


 「なーに難しい顔しているんだ零! 100年後の世界がどうなっているのか探検しようよ!」


 一は好奇心のおもむくまませわしなく目を動かしている。


 「そうはいってもね、今の私たちは食べ物も買えないし寝る所もない。 このままだとただの浮浪者なのよ。 誰かさんがパネルを打ち間違えたせいで」


 「うぐっ……。 ごめんなさい……」


 「せめて私たちが知っている建物でもあればいいんだけれど……」


 「この様子じゃどこもなさそうじゃないか……」


 一と零が目をつぶり同じ格好で悩むこと数秒後。


 二人が同時に声を発した。


 「私たちの実家ならまだ残っているかも」

 「私たちの実家ならまだ残っているかも」


 二人は目を合わせると、またしても同時に頷いた。


 そして、たまたま二人の前を通りがかった背広姿の男性に零が声を掛ける。


 「すみません。 お尋ねしますが、この近くに『古匠温泉』はございますか?」

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