90bit ご褒美とご依頼


 「で、お嬢さんはMANIACに何の用なの?」


 無我夢中でえみりりトークを繰り広げる井倉に対し、真衣がストレートな質問を投げかけた。


 井倉はハッと我に帰り、少し頬を赤らめながら糸の席に戻り、足組みをして座り直す。


 「だからそこ私の席なんだけど……」


 「実は君たち四人に頼みたいことがあって来た」


 「頼みたいこと……?」


 席を奪われた糸が肩を落としながら訊き返す。


 「うむ。 見事に頼みごとを達成してくれたあかつきには、願いをひとつだけ叶えてあげよう」


 「願いを……」

 「叶える……?!」


 糸と雛乃は互いにアイコンタクトをとったあと、目の色を変えて井倉を見た。


 イクラちゃんは相当なお金持ちのはずだから、それはもうたんまりとご褒美を……。


 「ただし、理にかなう願いだけだ。 例えば自由に空を飛びたいなどの夢想や、百億円欲しいといった強欲ごうよくは言語道断。 スマートな願いをひとつだけだ」


 井倉が注意を述べるにつれて、糸と雛乃の目の色はみるみると失われていった。


 「どうせ私はお金欲まみれですよ……」

 「空、飛んでみたかったな……」


 糸と雛乃はしょんぼりとした顔になる。


 「私はブチ切りプリンを食べたいわ」


 「その願いでも構わない」


 「真衣ちゃん勿体もったいないよ。 どうせならもっと値段の高いものを」


 「糸っちはまずお金から離れなよ」


 糸も雛乃も真衣も意見はバラバラだった。


 「ちなみにえみりりはどんな願いを叶えたい?」


 「えっと……私は……」


 英美里は深く考え込んでから言った。


 「世界が平和でありますように、かな」


 こ、心が清らかすぎるよ英美里ちゃん!!


 でも、それは理に適っているの?!


 糸は英美里の純真さに胸を打たれつつ、今は井倉の反応が気になった。


 イクラちゃん、怒っているかもしれない……。


 「さすがえみりりだね、願いごとまで美しい。 えみりりの願いなら私、全力で叶えちゃおうかな」


 あれ、判定が激甘では?!


 自分と英美里の対応の落差に、糸はことさらショックを受けた。


 「で、肝心のご依頼はなんなの?」


 「よくぞ聞いてくれた目黒真衣。 頼みたいことというのは……」


 井倉はずっと持っていた分厚い本を両手に持ち、両腕を前に伸ばした。


 「君たちに、本を守ってほしいんだ」

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