116bit たまには息抜きもしなきゃ

 「ところで、イクラちゃんは何か用事があってここに来たの?」


 糸の質問に井倉はギクリとした。


 本当は誰かに気付いて欲しかったが、いざ自分からとなると、言いにくい……。


 「そのだな、私が来たのは他でもなく……」


 バンッッ!!


 井倉の声は、扉の盛大な音に遮られた。


 「やぁどうもどうも! ご無沙汰してたね! ってあれ? どうしたのみんなしてはとが豆鉄砲を食ったような顔して。 ハジメこと私とシズクが来ましたよー!」


 「ハジメさん……なんですかその異常に高いテンションは……?」


 糸は目を点にしたまま固まっていた。


 「ええ? そう? 別にいつも通りだけどなー」


 「最近、MANIACの四人がかまってくれなくなったから、ハジメちゃん自棄やけになっているんです。 古匠温泉に行っては延々と小言を口にしています」


 シズクが包み隠さずに事情を説明すると、ハジメは塩をかけられた青菜のようにしぼんでいった。


 「りっちゃんに相談したら……派手さが足りないんじゃないかって……うぅ……私の存在感が薄くなったとか、思ってないもん……」


 「ハジメさん……その……ドンマイです」


 雛乃は憐憫れんびんの情をハジメに向けた。


 「と、いうわけで。 みんな、明日海行こう」


 「どこが『と、いうわけで』かさっぱりわからないんですけど」


 ハジメの脈絡なき突飛勧誘を、真衣はチクリと言わずにいられない。


 「いいじゃんいいじゃんつれないなぁ。 たまには息抜きもしなきゃだよ。 ね、イクラちゃん。 イクラちゃんも一緒に行くよね? 海に」


 「なんかさりげなく私も誘われてる?! 海だなんて……。 一応……一応だぞ。 サモン、明日のスケジュールは」


 「大丈夫です。 終日オフでございます」


 佐門は訊かれるのを予知していたかのスピードで答えた。


 「……。 じゃあ……。 えみりりが行くなら」


 井倉はモジモジチラチラと英美里に視線を送った。


 「うん! いいよ、一緒に行こっか! みんなも行くでしょ?」


 「日焼け止めにビーチサンダル、それから麦わら帽子も……」


 「可愛い水着を新調しちゃおっかなぁ」


 「スイカ割りに必要な木の棒を求めて森を探索せねば」


 糸も雛乃も真衣もあからさまなリアクションで、英美里はクスクスと笑ってしまった。


 「ハジメさん、みんなを海に連れていってください。 宜しくお願いします」


 英美里はぺこりと頭を下げる。


 「よし! じゃあ決定!!」


 「あ! ちょっと待ってくださいっ!」


 「どうしたの糸っち?」


 「その……、せっかくなので……」

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