27bit どうしても辞めたいのであれば


 後ろから誰かが追ってくる感覚があった。


 「真衣! 待って!」


 この声は……ハジメさんか。


 真衣は逃げる意味もないため、その場に立ち止まった。


 ほどなくして、真衣のすぐ後ろにハジメが追いつく。


 ハジメの息は上がっていた。


 「事情はよく分からないけれど……何があったんだ」


 「ハジメさんには関係ありません。 そして、私はMANIACを辞めます。 もう、あの場所にはいられない」


 真衣は感情が読まれないように、抑揚のない口調で言った。


 ハジメさんなら無理にでも引き留めるだろうか。


 でも、私は引き下がらないつもりだ。


 「わかった。 私は真衣の選択を尊重する。 ただ、明日の午後五時ぴったりに、ここへ来て辞めるための書類にサインをしてほしい。 今は準備できていないから……すまない」


 ハジメは息も絶え絶えに頼んだ。


 案外、すんなりと受け入れてもらえるんだ……。


 おそらく、私を無理やりMANIACへ誘ったことに、多少の負い目でも感じているのだろう。


 「ええ、わかったわ」


 真衣は再び歩を進めた。


 歩いている最中、後ろは決して振り向かないように意識していた。


 自分の決断に迷いが生じてしまいそうだったから。

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