183bit 特別な存在
「あらあらこれは糸さんに真衣さん、こんなところで会うなんて」
「およぉ……? おお! 糸っちじゃないか! やっほー!」
糸と真衣が立ち止まっているのをシズクの方が先に気づき、シズクの発言によってずっと俯いていたハジメがむくっと顔をあげた。
「や、やっほぉ……って二人ともどうしたんですか、そんなにフラフラで!」
「どうしたも何も、ヤケ酒をしたらこんな末路に……ヒック」
「私はそこまででもないのですが、ハジメちゃんはかなり限界まできているみたい」
「いったいどれだけお酒飲んだんですか……」
言われてみると、たしかにシズクさんの方がハジメさんの身体を支えており、頬もハジメさんの方が赤くなっていた。
「こっちも言わせてもらうけど、なーんで高校生がこんな深夜にほっつき歩いているんだー?!」
「いやいや、これにはちゃんとわけがあって……って酔っ払い相手に真面目な返事をしていいものか……」
「いわゆる夜遊びだね?! 私も若いころよくやったわぁ。 まぁ今も十分若いけど」
「二人ともごめんなさいね……ほらハジメちゃん、糸さんも真衣さんも困っているでしょ?」
シズクさん、大変そうだ……。
糸は心の内でシズクさんに同情した。
「ねぇ糸、今がチャンスなんじゃない?」
そう糸の耳もとで真衣がささやいた。
チャンス……。
なるほど、今なら酔った勢いで何か教えてくれるかもしれない。
「うん、わかった。 真衣ちゃんありがとう」
真衣に小声でお礼を述べると、糸は大きく息を吸った。
「あの、お二人にききたいんですけど、私がMANIACにいる理由って何ですか?」
糸はあえて前置きをせずに核心に迫った。
特に何もなければぽかんとするだけだろうし、何かあるのだとしたら……。
「何を言っているの糸っちは。 糸っちがMANIACに入りたかったから入ったんでしょ?」
「そ、そうですよね……」
やっぱり。
雛乃ちゃんや真衣ちゃんは深く考えすぎで、二人が何かをたくらんでいるわけじゃ……。
「私って、他の三人と違ってITの才能があるわけじゃないし、いたって平凡ですけど、そんなの関係ないですよね。 すみません変な質問しちゃって」
「糸っち、今自分のことを『平凡』と言ったかい?」
そのとき発せられたハジメの声は、それまでの陽気な様子とまるで違っていた。
周りの音が
「は、はい……」
「それは違うよ。 雛乃ちゃん、英美里ちゃん、真衣はもちろんキーパーソンだけど、一番重要なのは糸っち、君だよ。 君は特別な存在なんだ」
「特別な存在……?」
「ああ、そうとも。 あと一週間……あと一週間ですべてが決まる」
「ち、ちょっとハジメちゃん! しゃべり過ぎ!! ご、ごめんなさい二人とも、ハジメちゃんの言葉は忘れて。 そ、それじゃあ風邪ひかないようにね」
シズクは何かを察知したような顔をした途端、不自然に会話を中断させ、ハジメの腕をを肩に抱えながらその場をそそくさと去っていった。
「特別な存在……あと一週間……」
気づけば糸の頭の中は、ハジメの言葉でいっぱいになっていた。
特別な存在とはどういう意味なのか……さっぱりわからない。
けれど、一方でわかったこともあって。
ひとつは、ハジメさんとシズクさんが何かを隠しているということ。
もうひとつは、一週間後、その日はまぎれもなく自分の誕生日であるということだった。
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