21bit ええ、よろこんで


 英美里と真衣が終了を告げた後、キーを打つ音が聞こえなくなった部屋は、緊迫で張りつめた空気が漂った。


 「ど、同時……?!」


 糸も雛乃もどうしたらよいのかわからず、その場に立ちすくんでしまう。


 やがて、雛乃が意を決したように、真衣と英美里のディスプレイを見にいった。


 「本当に……できている」


 雛乃はウロウロと交互に席を行ったり来たりしている。


 ハジメさんといくつか会話を交わしている間に、一つの物語を書き上げてしまうほどの速さ。


 糸は無意識的にメロスの姿が思い浮かんだ。


 彼はどのくらいのスピードで走ったんだっけ。 


 「もしかしたら誤字脱字があるかもしれないから、そのチェックで勝敗を決めたらいいんじゃないかな」


 ハジメの提案に雛乃が反応する。


 「ハジメさん、ナイスアイデアです! あ、でも、こんな長い文章をチェックするのは……」


 「私がしますね」


 そう笑顔で言ったのは、シズクだった。


 「いつの間に?!」 「いつの間に?!」


 糸と雛乃が揃って驚く。


 「この部屋に入ってから誰とも目が合っていませんからね。 それほどに、皆さん集中していましたよ。 それはそうと、五分少々頂ければ、くまなくチェックして差し上げます」


 五分少々か……結構待つな……。


 って違う! 早いよっ!!


 二人分の文章をチェックしなければいけないのに、そんな短時間で……、でも、一応シズクさんもパソコンには詳しそうだし、何らかの何かを使って早く済ませられるのかも。


 「じゃあ、お願いします」


 応えたのは真衣だった。


 「ええ、よろこんで」


 シズクがゆったりと言いながらほほ笑んだ。

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