97bit 圧倒的に不利で明らかに劣勢で


 「はっきり言っていい? 紙の本は圧倒的に不利だよ」


 イクラちゃんと別れてから五日後、四人は再びMANIACの部屋に集まっていた。


 机上のパソコンなどを一旦片付け、一列だった机を会議がしやすいよう並べ替えている。


 天井から見れば、さながら漢字の『田』のように。


 そして、いざ口説き文句決定会議を開いた直後だった。


 開口一番に放った雛乃のセリフに糸は耳を疑った。


 これから紙の本をアピールしなきゃいけないってのに、もうお手上げ状態?


 「紙の本は明らかに劣勢」


 ま、真衣ちゃんまで?!


 「私たちが応援すべきなのは紙の本だよね?」


 もしかして間違っているのは自分の方?


 糸はそんな錯覚にとらわれる。


 「うん、だから私は紙の本と電子書籍を比較して、紙の本の利点を見出そうとした。 だけど特に見つからなかった。 それはなぜかって言うと」


 「電子書籍は紙の本の上位互換だから」

 

 横並びに座った雛乃と真衣は、さも台本があったかのように会話が噛み合った。


 「私、普段本を読まなくて、電子書籍自体あまり馴染なじみがないんだけど、電子書籍ってそんなにすごいの?」


 英美里は読書習慣のない生活を明らかにした上で真衣と雛乃に尋ねた。


 すると、雛乃はおもむろにカバンからタブレット端末を引っ張り出し、糸と英美里に画面を向けた。


 「そりゃあもう! 電子書籍であれば、数千いや数万の本を苦労することなく持ち運べるし、データの本はいつまでも老朽化しない。 文字を大きくしたり小さくしたりといったカスタマイズも可能だし、防水機能搭載の端末であればお風呂でだって読書ができる。 データの本は都会から田舎まで一斉に配信されるわけだから、新刊を発売直後に読むことができないといった地理的理不尽も起きない。 今じゃ、紙の本と変わらない光度で画面を映す端末もあるから身体にも十分配慮できているし、紙をまったく使わないわけだからエコロジーだし、メリットだらけだよ」


 雛乃はタブレット端末に映った資料を次々とスライドさせながら力説した。


 スライドにはグラフやらイラストやらがふんだんに散りばめられていて、電子書籍をこれでもかと言うほど褒めちぎっていた。


 「雛乃ちゃん、セールスマンみたいになっちゃってるよ!」


 「……、電子書籍について調べていたらついついのめり込んじゃって」


 「本末転倒だよ……」


 そう言いつつ、雛乃がこうなってしまうのも無理ない、と糸は思っていた。


 情報通信技術が発達した今、電子書籍は無限の可能性を秘めている。


 五日間コツコツと情報収集していくうちに、自分も電子書籍に魅了されかけていた。


 けれど。


 「雛乃ちゃんは電子書籍の重大な欠点を見落としているよ」


 私は気付いてしまったのだ。


 紙の本が形成逆転できる、とっておきの一手に。

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