TS.異世界に一つ「持っていかないモノ」は何ですか?
かんむり
Chapter0 〝プロローグ〟
0:0 「無人島に一つだけ持っていかないモノは何ですか?」
ここはどこだ?
強いて例えるならば、辺境のド田舎に建つ小さな町役場……とか?
この場から見る限り、このロビーには仕切りの一つもないカウンターと呼び鈴、それからそこに腰掛ける為の丸椅子のみ。
カウンタ―の奥にあるらしい事務所は、こちらからは見えないようにご丁寧に壁で仕切られている。
どこもかしこも今にも朽ち果ててしまいそうではあるが、一応は隅々まで手入れが行き届いている様だった。
そんな簡素極まりない木造建築物のカウンター席に、この俺『
そんでもってカウンタ―の向こう側。俺の目の前には、黒を基調としたスーツに身を包むスタイル抜群な金髪メガネのお姉さん。
名札らしきものは見えないが、この役場(?)に勤めている人だろう。
そして俺の手元には、そのお姉さんから渡された一枚のアンケート用紙。
明らかにおかしい。おかしいんだが……何故か違和感のようなものは感じない。
俺がここに居ること自体は、不思議と自然のことのように思えた。
だがしかしだ、そんな状態でも、このアンケートに書かれている質問は素直に意味が解らない。まあ、それでも一応答えるんだが。
Q:何か一つ「無人島に持っていかない物」を選ぶとしたら、あなたは何を置いていきますか?
A:自分
解らないなりに、そこそこいい回答ができたと思う。
無人島とか行きたくないし。
……しかし、本当に何だこのアンケート。
「ご回答、ありがとうございました。ではそちらの回答に基づき『転生準備』をさせていただきますので、そのまま少々お待ちください」
「あ、はあ……は?」
アンケート用紙を回収するお姉さんを思わず二度見してしまう。
この人、今なんて言った?
聞き間違いでなければ転生がどうのこうのとか言ってませんでしたか?
転生ってあれですよね?
あの転生ですよね?
なぜ!?
どゆこと!?
「え? なに? 俺転生するんですか!?」
「はい、そうですが。何かご不明な点でも?」
「ご不明な点しかないです!! 俺死んだんですか!?」
「なるほど、亡くなったご自覚がないと……では簡単にご説明しましょう」
「お願いします!」
「こちらをご覧ください」
お姉さんはそう言うと、何やら一枚の紙をカウンターの下から取り出して、俺の目の前へ差し出してくる。
見るとその紙っぺらは履歴書のようになっていて、俺の人生における略歴が今に至るまで……なんと先ほどのアンケートの回答までもがご丁寧に明記されていた。
ここまででも驚くべきところなのだが、問題はその下……『死因』と書かれた項目だ。
「あの、これ……」
「はい。御覧の通り、恵月さんの死因はウチのスタッフの犯行による窒息死ですね。私も上の者から伺っております」
「伺っております。じゃないよ!? 犯罪だよそれ!? 殺された方の身にもなってもらえません!?」
「それから死亡時刻前後の記憶に関しては、諸事情により制限をかけさせていただいていますが特に心身的な問題はございませんのでご安心ください」
「だから問題しかないですってソレ!!!」
それでここに来る前の記憶がないのか―……なんて納得するとでも思ったのか!?
一体どんな理由があったらそんな理不尽極まりない行為が許されるというのか!!!
納得の行く説明をしていただきたい!!
「そうは申されましても、私は先に申し上げましたことと、転生手続きをするようにとしか聞かされておりませんので、そこまで詳しいことは……」
「とんでもないほどに他人事ですね? いっそ清々しいですね!? ……はぁ。もういいです。とりあえず納得の行く説明だけしてもらえませんか? 呪いますよ」
「のろッ……死人に言われると説得力ありますね……しょ、少々お待ちください」
先ほどまで無頓着を貫いていたお姉さんが一変、『呪い』という単語を聞いた途端に慌ててカウンター裏の扉をくぐり、事務所へと駆けていく。
本気の焦り顔だったから、実際にそんな力があったりするんだろうか。そこに関してはちょっとだけ興味が湧てくる。
……とはいっても、そんなことをしてこちらの立場をこれ以上悪くされるのも嫌なので、特に何をする気もないが。
まあ、今も十分最悪だけどね?
「……お待たせいたしました」
そうこう考えているうちに、沈んだ表情になったお姉さんが戻って来た。
もう既に嫌な予感しかしない。
「で、説明お願いしてもいいですか」
「はい……そのことなのですが……」
「なのですが?」
「掛け合ってみたのですが、やはり詳細は明かせないと……」
「はぁ~~~ぁ、そーですか」
そんなこったろうと思いました。
クソでかいため息だけで抑えた俺を褒めてほしい。
本当だったらここで暴動でも起こしてやろうかと思うところだが、そんなことをしても無駄なんだろうという諦めの方が勝ってしまった。
「申し訳ございません!! どうか、どうか呪うのだけは!!」
「あーもういいですよ、どうせ何しても無駄なんでしょう」
「……申し訳ございません」
「その代わり、最後に一つだけ確認させてもらっていいですか」
「はッ! はい……なんでしょうか」
何にせよ、これだけは絶対に聞いておかねばなるまい。
これがなければ死活問題。『臣稿恵月』という人格そのものが無くなってしまうかもしれないのだから。
「わざわざこんな話してるんですし、記憶とかは持ち越しできるってことでいいんですか」
「えっ……あ、はい。記憶はそうですね、特例として許可がおりています」
「じゃあもうとっとと転生させてください」
「はっ、はい! えっと、丁度先ほど全ての手続きが完了したようですので、後ろのドアからご退室なさるだけで大丈夫です。その際、一瞬強い不快感に襲われる可能性がありますが悪影響はございませんので、その点はご安心ください」
なんでちょっと嬉しそうなんだよ、俺はクレーマーか何かですか!?
まあそれは置いといて、要は外に出るだけで転生完了ってわけだ。
俺はお姉さんの言葉を聞き終え、その手の指し示す――背後にある扉の方へ顔を向ける。
その視線の先。木製の扉の輪郭が神秘的な淡い光を放ち、いつでも準備はOKですとばかりに強調されていた。
全く、何もかもが理不尽極まりない。
全てにおいて納得がいかないが、なってしまったものは仕方がない。
俺はこう言った踏ん切りは得意な方だ。
起こってしまった事象は、受け入れなければ前に進めないのだ。
だがただで水に流してやる筋合いもない。
第二の人生、このお姉さん含め、彼女らスタッフが悔しがるくらい謳歌してやる!!
「じゃあ、俺はこれで」
「ああ! ちょっと待ってください!!」
「……何、まだ何かあるんですか」
「ひとつ、お伝えし忘れていたことがございまして……」
「は、はぁ」
この期に及んで何?
どーせまたしょうもないことなんじゃ――
「詳しくは私も存じ上げないのですが、転生したら【キョウスケ・オミワラ】という方の元を訪ねろと……上はそう申しておりました」
「―――は?」
キョウスケ……オミワラ……!?
「何だよそれ……マジ、意味わかんねぇ……」
ここに来て大目玉が飛び込んできてしまった。
つかそんな大事なこと忘れるなよ!
全く……そのフレーズには聞き覚えしかない。
キョウスケ・オミワラ……もとい
この俺、
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