5:45「急げ!ピンチだ!」
孤児院に戻り、親父から事情を聞かされた俺たちは、一刻も早く出発しようと準備を始めた。
とはいえ、送り迎えはシーナさんが【
「ああ、そうだった! 恵月」
「ん?」
「これ、持っておいてくれ」
「!」
親父がズボンのポケットから取り出したのは、若干の傷がついた【
屋敷が壊れた時に、瓦礫の中に埋めれてしまったはずのそれだ。
「わざわざ探し出したの……?」
「まあな。一応動作も確認済み……なんだが」
「だがって何――」
「旦那ぁーー!!」
何だか気まずそうな顔を親父が見せた直後。
大声を上げて孤児院に入ってきた人物が一人……あ、あの見知った猫耳のシルエットは……!?
「アリィ!?」
「あらあらこんにちは~」
「あっ、おかえりなさいですエルナちゃんにロディさん! 丁度良かったです!」
旦那と叫びながら入ってきた手前、どう考えても偶然とは思えない。
俺たちがここにいると知っていて来たのは間違いなさそうだが……俺と母さんがいて丁度良かったとは?
なんだか両手ででっかい包みまで抱えてるし。
「何でここに。てか、その包みは?」
「あー、えっと、ちょっと話しづらいんだが……」
依然気まずそうな親父が口を開くが、その視線は何処へやら。続きの説明を要求する様に、少し後ろに要るファルへと流れていた。
「カードを探している時に偶然いらっしゃいまして、そのまま捜索を手伝ってくださったんです。それで、実はアリィさんが見つけ出してくれたんですが、直後にクラウディア卿に念話が繋がってしまい」
「まさか」
「はい……全部バレてしまいました」
「あらあら……」
「ということで事情は把握してますので! 私も協力させていただく次第です!」
なんてこった。
俺のカードから通話が入った時の、ラメールの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
しかしまあ、放っておいてもアリィにはそのうちバレそうだったし、まだアリィでよかったという思うべきなのだろうか。
幸いなことに、彼女は俺の事情をほぼ全て知っている。協力者としても、恐らく一番候補に挙げやすい人物であった。
考えようによっては、色々と手間が省けてよかったとも言えるのかもしれない。
そろそろお世話になってる分が大きくなりすぎて心苦しいところではあるが……この際だ、それは考えないようにしよう。
「そしてですね! 超超超超急いで、お店お休みして新装備作ってきましたよ!」
「いや、それはどうなんだ!?」
店を休んでまでしてすることなのかっ!?
いやまぁ、確かに緊急事態だし、急ぐに越したことはない。現にこうして間に合ったことを思えば些細な……でもやっぱりまずくない!?
などと突っ込んでいるのは俺だけなのか何なのか、他の面々はアリィが持っている袋に興味津々だ。
気にしたら負けという奴なのか……それとも俺が気にし過ぎなのか……。
「ほう? それはもしかして、オレら全員分か?」
「いえ、流石にそこまでの時間はなかったので。以前請け負ったオーダーを元に改良した、エルナちゃんとロディさん用の新装備です!」
「ぬ? 俺?」
「あら、ほんとう!? うれしぃ~」
確かに元がある分作りやすくはなるか。
あとは経験が一番浅いのが俺と母さんで、足を引っ張りやすい分をカバーするという意味もあるだろう。
……となると、今使っているのはお役御免か。
そう思うとなんだか少し名残惜しい。実際のオーダーとは全然違うものではあったが、これに助けられたこともある。
例えば大討伐隊の時。魔力コントロールと身体能力への補正がかかっていたため、小ドラゴンへの散弾攻撃を成功させることができたのだ。
かなり走ったけど、ギリギリ体力も持った。これが素の状態だったら、ダイヤモンドオーク戦の時点でばてていてもおかしくない。
「本当は旦那たちの分も用意したかったんですけどねぇ」
「いいや十分だ、助かるよ。しかし、本当にナイスタイミングだったな。ちょっと看過できねえ動きがあって、すぐ出発しようとしてたところなんだ」
「おや、それはそれは……って置き去りにされるところだったですかっ!」
「ははははは、すまねぇって。じゃあ、試着は向こうについてからで頼む。今はとにかく、一刻も早く現地へ向かうぞ」
親父の言葉に頷き返し、外で遊んでいたののを連れてくると、俺たちはすぐに、シーナさんの魔法でノースファルムへと向かった。
* * * * * * * * * *
「……ダメですね、繋がりません」
私は渦に飲み込まれた後、すぐに洞窟のような場所に立っていました。
急ぎクラウディア卿にそのことを伝えましたが、念話は飲み込まれてしまったと言ったところで途絶。
以降、何をやっても繋がる気配はありません。
この洞窟は道がいくつにも分岐しており、水路もあるのか、水の流れる音が微かに聞こえてきます。
増援が来るまで隠れてやり過ごすということも、もしかしたらできるのかもしれませんが……。
「――いえ、ダメですね」
外で感じた気配……私をここに引き込んだとしか思えません。
となれば、間違いなくここの主である幻獣は私がいることを分かっているはず。
今は悟られるよう気配を殺していますが、それでもいつまでもつか……。
未知の場所に未知の敵。
洞窟であるがゆえに辺りは暗く、目が利く私でも完全に把握しきることはできない。
それに加え、敵の目が何処にあるのかもわからない。
まさに最悪の状況というわけですか。
「どうしましょうか。渦のことが伝わっているとはいえ、援軍が来るにはまだ相当時間がかかりますし……かといって、全く動かないわけにもいきません……一人で何とかする覚悟を、決めなければいけなさそうですね」
危険は承知。
それでも少しでも状況を有利に持って行きたいのであれば、必ず行動を起こし、情報を集めなければいけません。
敵に見つかり、戦闘になるまでのチキンレースと言ったところでしょうか。
まずは地形の把握。
それから幻獣が潜んでいるであろうポイントの割り出し、あわよくば姿を捉え……るのは、期待しすぎですかね。
あとは、罠に使えそうな物があればいいのですが。
「上や後ろだけでなく、足元にも要注意、ですね……」
目を張り、察知されない範囲で気を研ぎ澄ませ、辺りを確認しながら自分に言い聞かせます。
「フー……よし、行きましょう」
最後に深く深呼吸をして、心を落ち着かせた私は、ゆっくりと最初の一歩を踏み出したのです。
ゆっくり、慎重に、足音を限りなくゼロにして、一歩ずつ――。
「――っ!?」
そうして何他歩いた先で、踏み出した右足が地面をすり抜けていきました。
右足に重心が取られた体は、前傾姿勢となってそのまま同じように床をすり抜けて行きます。
幻術を張った落とし穴でしょうか。
しかし魔法の気配など全く感じませんでした……それに、落とし穴という割にはかなり深く、体の落下が一秒経過してもまだ止まりません。ではこれは一体?
何がどうなっているのか。
頭を必死に動かしていると、二秒経つか経たないかと言ったところで、私の体は何かモフモフしたものに激突し、跳ね飛ばされました。
この感じは床に何か敷いてあったとか、そういった類の物ではありません……恐らくはそう、生物の毛皮。それも生きているヤツです。
「……どうやら、最悪がまた一つ重なってしまったようです」
着地した先……三メートルほどあろうかという雄ライオンの姿を、私の目が捉えてしまいました。
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