1:5 「命名はご慎重に」
「職はまあともかく……ノーネーム……? エラー……?」
どこから突っ込んでいいモノか……。
とりあえず解説を求めて親父の顔を見る。
「ノーネームは問題ねえ。さっき生まれたばっかりみてえなもんなんだからな……しかしエラーってのは……」
「はい。アプティチュードバングルの故障、もしくは測定限界を大きく超えてしまっている……と言うことになります……恐らくですが」
親父の後にスタッフの黒髪短髪お姉さんが続く。
要は機械の故障じゃなければ母さんはいわゆるチート持ちになるってことだ。
しかし素早さ15のチート持ちが果たして役に立つのかどうかは疑問であるが。
「あら、つーくんも出てるみたいよ」
「!!」
やり取りを他人事のように見ていた母さんが、俺のバングルにも結果が表示されているのに気が付き、俺の肩をつつきながら言った。
この結果を見た後だとなんだか気が重いというか、変なプレッシャーがかかるのだが……母さんの息子である俺が果たしてどうなっているのか……。
俺は表示された窓を親父に見せて解読を頼む。
名前:エルナ・レディレーク
種族:ハーフエルフ(人間:エルフ=1:9)
性別:♀
職業:
―――――――――――――
基礎レベル:2
生命力 :152
精神値 :147
魔力値 :ERROR
ちから :10
素早さ :100
知力 :177
運勢値 :7
物理適正値:269
魔法適正値:ERROR
属性特性 :炎 風
備考 :魔力値が限界値を超えています。
他、呪い耐性値100%
特殊効果・すべての物理、魔法攻撃に呪い属性付与5%
「……だとよ。」
「……だとよ。 じゃねえよ、母さんのよりよっぽどツッコミどころ満載でびっくりだわ!」
「あらあらー」
相変わらず母さんは他人事だし。
お姉さんはなんかすごい驚いてる風に口をあんぐりと……そんなにヤバイの?
「名前はお前、自分でエルナだって名乗ったんだろ?」
「は!? 何! そんな簡単に名前決まっちゃうの!?」
「あらそうなのねー。つーくんがエルナならー……」
「え? 母さん!?」
「わたしはーそーねぇ、音祢でしょぉー……『メロディア・レディレーク』なんてどうかしらー」
母さんがそう言うと、窓の名前の部分が一瞬ノイズがかるようににじみ、メロディア・レディレーク(らしき文字)に書き換えられる。
……どうやら機械は正常に動作しているらしい。
俺の魔力値といい、やっぱり母さんはチート級ということで間違いなさそうだ。
「みてみてつーくん変わったみたいよぉー」
「楽しそうで何よりです……」
「うんー? でももう『つーくん』じゃないのよねぇー」
「ファ!?」
いや……は!?
ちょっと待って!
それ以上言わないで!!!???
「よーし! これからは『エルちゃん』って呼ぶわぁー」
「つーくん! つーくんでいいです!」
「嫌がるのも可愛いわよーエルちゃん♡」
ああ……もうやだ、死にたい。
なんだろう、話が通じる相手がファルしかいない気がするのは気のせいでしょうか。
……と言ってもファルともろくに会話なんてしてない気がするんだけども。
「エルナにメロディアか……オレだけ仲間外れみたいでなんかアレだがまあ、いい名前だ。流石音祢、我が妻よ! がっはっはっはっは!!」
「あらーあなたありがとぉ。気軽にロディって呼んでねぇー」
「……音祢じゃダメかぁ?」
「ダーーメ」
「……どうしても?」
「ダーーーーメ」
「クッ……ぐぬ……お、お前がそう言うなら仕方ねぇ……!」
親父の顔がすっげえしおれてる。名前一つでそんなにショック受けるか普通……? て、俺も人の事言えないかもしれないけどさ。
名前以外にもまだまだツッコミどころはあるけれど……結局これを踏まえてどうしろと言うのか。
見た(聞いた)限りじゃ俺も母さんも魔法特化型というのは間違いなさそうだし、かといって親父がいきなり俺たちに冒険者的なことをさせると……?
というか……そもそもだ。
〝――俺たちはどうしてこっちの世界に連れてこられたんだ?〟
親父を見つけ出せば全部わかると思っていた。
でも実際会ったら会ったで謎だらけだ。
俺はしおしおの親父を横目に見ながら、この先の不安を頭によぎらせる。
「あ、あのー……」
……と、言うところに少し気まずいというか、話の中に入りにくいという雰囲気を醸し出しているカウンターのお姉さんが小さく親父に言う。
「それで、これからどうなさるのですか? この数値を見せられてしまうと、流石に我々としても動かないわけには……」
「……ん……あ、ああ……そうか……」
明らかに親父の声が沈んでいる。
しかし動かないわけにはとは……? 俺と母さんを冒険者ギルドに勧誘しようとでもいうのだろうか。
それとも何かほかに理由でも?
「とりあえず、今度な……今日はもう帰るわ……」
「え、あ……はい。ではひとまずは記録だけさせていただいても……?」
「好きにしてくれ……」
「いやいや好きにしないで!?」
なんか勝手に話進められてるよ!?
思わず声あげちゃったけど、俺なにも間違ってないよな!?
「心配しなくても、記録は皆普通にしてることだから大丈夫だぞ……」
「その言い方が既に不安しかないんだけど」
「まあまあいいじゃないのー、エルちゃんもほら、腕輪お姉さんに渡してー」
母さんはどうしてすんなり受け入れられるんだ。
順応性が高いのか、それともただ流れに身を任せているだけなのか……しかしまあ、そこまで言うのなら言う通りにしておこう。
渋々俺もバングルを外し、カウンターに二つのアプティチュードバングルが置かれる。
そしてお姉さんがその上にそれぞれ書類のような紙をかざすと、バングルが緑色の光柱を放ち、書類に先ほどの計測結果が滲み出てきた。
「ほー……」
「神秘的ねぇー」
「……と、はい。お二人の分です。次いらっしゃったときにこちらの書類をお持ちください」
お姉さんが重なっていたらしい書類の上1枚ずつを俺と母さんに手渡してくる。
その後は親父に深々とお辞儀をして、お姉さんは奥へと去っていった。
うーん……気になる。結局親父は何者なんだ……?
「はー……恵月、音n……ロディ、帰るぞー」
「親父ー、いい加減元気出せよそんな名前くらいで」
「……エルナはいいよなぁー……」
うわなんだこのおっさんうぜぇ!!
これ見よがしにそっちの名前使ってきやがって!
ジト目を向けて言ってくる親父を前に、俺は思わず顔が引きつって……体も若干仰け反り気味になってしまう。
なるほど、これがドン引きと言う奴か。
「あなた元気だしてー、また御夕飯好きな物つくってあげるからぁー」
「マジかよォー!! お父さん頑張る!!」
……ホント、なんなんだこの夫婦。いや、親父は。
25年ぶりで嬉しいのはまあわかるけど……そんなに恋しかったのか?
すっかり元気を取り戻した親父は「行くぞー!」と元気いっぱいに出入り口へと足を踏み出す。
母さんに引きつったままの顔を見せると、母さんは「うふふ」と俺に微笑み返して親父の後を追っていった。
「はぁ……ほんっと、先が見えねぇ……」
ぽつりと声質に似合わぬ愚痴をこぼした後、俺も母さんの後に続く。
赤絨毯を出口に向かって行く際に何人かの視線を感じた気がしたが、今はあまり気にしないでおこうと思う。
* * * * * * * * * *
「ところで親父」
「んー? なんだー♪?」
うっわなんかこれはこれですっげえ鬱陶しい!
親父がものすごくだらしのない……まるで何かに魅了されているかのようなメロメロ顔で俺の問いかけに応えてくる。
「ファルはどうするのさ、別行動してるんだろ?」
「あー、それな」
「ファル? そう言えばさっきもそんなこと言ってたわねぇー、あなたの爪楊枝がどうとかってー」
「……養子な、養子」
母さん、あなた本当に知力振り切れてるんですか? マイナスとかじゃなく?
さすがの親父も苦笑気味に訂正すると、先程までとは一転、まじめな顔になって言った。
「心配ない、多分明日には自分で帰って来るだろう。おt……ロディとの顔あわせはその時にあらためて、だな。ま!帰り道くらい楽しもうぜ、久々の家族3人水入らずってやつをさ」
「ほ、ほう……ならまあ」
「たのしみねぇー」
その時の親父は、まじめを通り越してどこか寂しささえ感じさせるものがあった。
特に最後の一言……俺たちの知らない25年を過ごしてきた親父にとって、この言葉がどれだけの重みを持っているのかは分からない。
母さんもあっけらかんとしてはいるが、内心では恐らく何か勘付いている。そういうことに対しては人一倍敏感な人だから。
「じゃあ、どうせだしゆっくり行こうよ。町の景色ももっと見たいし」
「お! いいこと言うなー恵月、賛成だ!」
「たのしみねぇー♡」
昼下がりの王都、その一角。
馬車に乗り、ファメールの屋敷に帰るまでのわずかなひと時。
せめてその限られた時間の中だけは、ここ1日半のことは忘れて笑っていたいと……俺は雲一つない真っ青な空にそう願った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます