1:7 「お母さんといっしょ お風呂編 1」
ところで皆々様、お風呂はお好きですか?
俺は結構好きでした。
日々の疲れを癒してくれるあのひと時、そーだな大体5番目くらいに好きでした。
ひとっ風呂浴びた後の牛乳もサイコーですよね。あれの為だけに母さんに頼んでビン牛乳を取ってもらっていた時期もあったほどです。
腰にタオル一丁でイッキに行くのが風呂上がりの体に染みてウマいんですよね。
ええ……ウマいんですよ……。
「……はぁ」
「ほらほらーエルちゃん早くー♪」
と、言うことでここは屋敷の一階西奥、大浴場……の、更衣室。
食事を済ませた後、親父とファルは何やらやることがあるらしく早々に上の階へと上がっていったのだが、その際に親父が「風呂はこの階のいっちゃん西」などと言い残して言ったせいでこんなことになっている。
具体的には母さんと二人で風呂に入るという事態になっている。
別に嫌とかそういう訳じゃないんだけどさあ……17歳にもなって母親と風呂って……小学生? 幼稚園児? そんな他愛のない気恥ずかしさがあるんですよ。
正直母さんはスタイルいいし、おっぱいもでかい。この機を逃すのは勿体ないとか思う奴もいるかもしれない。
しかしもう一度言おう、今更母親と二人で風呂って……ねぇ?
「ねー、やっぱ俺あとでいいよ。なんか照れくさいし」
「何言ってるのー、たまにはいいじゃない! 折角女の子になったんだしー、色々教えてあげたいしぃー」
「お母さま!! 勘弁してください!! お願いします!! なんでm――!!」
「えいっ」
「……―――!!?????」
違和感を感じた。
下を見たら服がきれいさっぱり無くなっていて、谷間からスカートが落ちているのが見て取れた。
そんでもって前を見てみると、無くなった服は母さんがニコニコしながら持っている。
……いや「えいっ」て! 「えいっ」じゃないよ! お得意の風の魔法さんですか!? ですよね!? なんか一瞬だけそんな感じしましたもの!
「何するんだよ! 返せよ!!」
「あらー可愛い下着ー」
「あらーじゃないよあらーじゃ!! 返せってば!」
「だって可愛いものー、もちろんエルちゃんの方が何倍も可愛いけどぉー♡」
「いや嬉しく↑ねェよ!?↓」
変な声でちゃったじゃねえかよ!
そんなことを言っている間にも、まるで別の意思で動いているかのように母さんの手は俺の服をたたんでかごに入れている。
もう取らせませんよと言わんばかりの手際の良さに、呆れるのを通り越して尊敬の念すら感じる。
「さーさー、早く行きましょー。こんな大浴場滅多に入れるものじゃないわぁー」
「……多分、これから毎日入れるよ……うん。」
くそう……本当言い出したら止まらない母親だ。
俺が諦めたのを察してか、母さんは俺の服を入れたかごから遠ざかり、せっせと自身の着ている純白のワンピースを脱ぎ始める。
そう言えば、俺は転生直後裸になったのに、母さんはちゃんと着ていたのは何でだろうか?
性別が変わってしまったのと何か関係があるのだろうか。
「……まあ、それはいいか」
俺は自分の服が入ったかごの前まで行き、背中にあるブラのホックに片手をかける。
……そう、手をかけるだけ。
その動作に紛れさせ、もう片方の手はかごの中に向かわせる――母よ、俺はまだ諦めておらんぞ!!
正直そこまでムキになることでもない気はするのだが、ここまで来て諦めるのは男が廃るというものだ。
横目に着々と脱いでいる母さんの動向をうかがいながら、服を掴み……逃げ―――!!
「ぶッッフぅ!!??」
風の壁にぶつかった俺の体は、それはそれは綺麗な弧を描きながら大浴場の中へと飛んでいきました。
ついでにその時、下着類は綺麗に母さんの手の内に収まったとです。
母さん、思っていた以上に風さんを使いこなしていらっしゃったとです。
「もー、エルちゃんたらぁー。そんな恰好でお父さんに見られたらどうするのー?」
も……問題はそこじゃないです……。
いや、それも十分問題がある気はするけども。絶対いじられる気しかしないけれども!
ああ、しかしこれでもう逃げられません。
俺は反省の意を示す正座でもって、母さんが大浴場に入って来るのを待ってることにしました……。
* * * * * * * * * *
「ほらーこーやってねぇ、毛先に泡を馴染ませて、丁寧に丁寧に洗ってあげるのよぉ」
「はぃ……はぃ……うぅ……」
皆様、今度は何があったと思うだろうか。
なに、理由は簡単。
いつも(転生前)の感覚で頭を洗ったら怒られたのだ。そして母さんの手で、丁寧に丁寧に洗われているのだ。
「……やっぱり髪切ろう」
「何か言ったかしらぁー?」
「なんでもないです!!!!」
と言っても、問題は髪だけじゃない。
母さんに後ろから髪を洗ってもらっているので、当然俺の顔は正面を向くことになるのだが……。
その俺の目には今、温泉椅子に座る全裸の美少女エルフとその髪を洗う美人エルフが映り込んでいる。
お分かりだろう、鏡だ。俺は鏡から目を放すことができないのだ。
いつ見ても美少女だ。うん、KAWAIIよ。
でもやっぱり違うのだ。何度もしつこいようだが、違うのだ。
後頭部と背中にかかる感触と鏡の中の動きが一致しているので、やはりそこにいるのが自分なのだと理解できてしまうのがすごくイヤだ。
昨日試着室で思ったことが実現出来たら……などと、何度もそのような妄想をしてしまう。
「エルちゃん、流すからシャワーとってー」
「へ? あ、うん……」
言われた通りにシャワーを手に取り、母さんに手渡した。
頭を通じて体全体をお湯が伝っていくのを感じていると、ふとこの先どうなるのかが頭によぎる。
順当に行けば次はもちろん、体を洗うわけだ。
つまりだ、この後母さんがどのような行動に出るかと言うと……。
「さーエルちゃん、次は体よー!」
うん、当然そうなりますよね。
知ってた。知りたくなかったけど、知ってた。
「い、いいって! 自分でやるから!」
「ダーーメ! またさっきみたいに適当で済ませる気でしょー! 女の子なんだからお肌も大切にしなさいとぉ!」
「だーから女じゃねぇってー!!」
「あらそうー、じゃあこの可愛いおっぱいはなんなのかなー?」
「――んんっ!?」
母さんが俺の胸を両手ですくうようにして、優しくふよふよしてくる。ふよふよと。
横から顔をのぞかせ、ものすごく優越感に浸っているような顔をしながら……ふよふよしてくるのだ。
「わ、わかった! んっ わかったからやめろって! ひ くすぐったいって!」
「あらそうー? 残念だわぁー」
「残念じゃねぇよ……」
体を洗うのってこんなに疲れるものだったっけ……?
そんなことを思っている間にも、俺の白く柔らかな肌に、タオルの繊維質と石鹸の泡が伝っていく。
男だった時、自分で洗っていた時とは明らかに違うその繊細な感覚に、己の身体の変化というモノをありありと見せつけられてしまう。
しかし不思議とこれに対して嫌だという感情は生まれてこない。
むしろ心地よさすら感じているのは、一体どういうことなのだろうか。
「……ていうか、母さん?」
「んー? なーぁにー?」
「さっきから背中に対しての接触面がやたら大きい気がするんですけどぉ……」
「あらあらー、気のせい気のせい♪」
うん、気のせいじゃないよね、当ててるよね。その豊満な脂肪のカタマリ、思いっ切り当てにきてるよね。
俺はどちらかと言えばデカい方が好きだ。しかしながら、母さんのソレで欲情するほど俺も落ちてはいないと声を大にして言いたい。
……ぶっちゃけそれを再確認できて少し安心している。
そしてこのシチュエーションでそんなことに安心している自分が嫌だ。
(はぁ……これがもし女性に対して欲情しなくなってるとかだったら……本気で笑えねえ……)
今後の人生にも関わる大きな不安をため息に乗せ、次に体をお湯が伝うまで、静かにくもりかけの鏡とにらめっこをする。
今の……スイッチが入ってしまった母さんには変に反応しない方が吉だから。
正直、これ以上のスキンシップは精神的に相当よろしくないのだ……。
だから母さんの手が段々と体の正面にも出てきていても、絶対に変な反応だけはしちゃいけない。
ああ、早く終わってく―――。
「きゃぅんっ!!」
「あらまぁーエルちゃん声可愛いー♡」
…………もういっそ殺してくれ。
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