4:4 「フレド孤児院」★
3人の子供たちを新たに引き連れ15分ほど歩いた。
現在時刻は11時20分……当初の予定とは大よそ1時間ほど遅れて、俺たちはフレド孤児院に到着したのだった。
「わ、わざわざ来ていただいたというのにすみません! 子供たちがとんだご迷惑を……」
白黒の修道服に身を包み、燃えるような赤髪を腰まで伸ばした眼鏡の女性――シスターマレンが、到着した俺たちに申し訳なさそうに何度も頭を下げてくる。
1時間近くも遅れてしまったにもかかわらず、シスターと17人の子供たちは裏門の前で俺たちが来るのを待っていてくれた。
そして俺たちが連れて来た3人を見て察したのか、それはもうペコペコと……貴族の片鱗など微塵も感じさせない物腰の低さを披露してくれている。
「い、いえそんな! 子供にはよくあることですよ!」
「――と、言いてえところだけどな」
「……親父?」
気にしてませんよと、シスターにそう伝えようとしたところで、親父がそうはいかんと割って入ってくる。
普段なら俺と同じ反応をしそうなので疑問の視線を向けてみると、親父はシスターの後方で今もソワソワとしている子供たちを見てみろと俺に促してきた。
早く遊びたそうに、それでもまだじっと耐えている様子の、連れて来た3人を含め20人の子供たち。
そのうち15、6人くらいだろうか?
一見してもそのくらいの人数は半魔人であることがうかがえた。
あとは獣人と人間が合わせて数人だと思う。
「見ての通り、ここに暮らす子のほとんどが半魔人なんだ。差別が改善されてきたとはいえ、まだまだ彼らを白い目で見るヤツは多い。今回はオレらだったから事なきを得たが、
「はい……仰る通りです」
親父の言葉を受け、シスターマレンはさらに委縮してしまう。
俺たちが通ってきた裏道は途中から3つのルートに分岐していて、そのうちのひとつがこの孤児院に通じていた。
あとの2つは俺もよく知らないのだが、方向的に片方は王都方面に繋がってるのかな?
ともあれ、そちらの道はほとんど使われていないようなので、万が一という可能性もそこまで高いものではない。しかしその万が一に当たってしまった時のことを考えれば、注意しなければならないのは当然か。
折角改善されてきたものがたったそれだけで瓦解してしまうのは、お互い絶対に避けなければならないのだから。
「ああ、まあ。そんなに気に病むことはない。これから気をつけようぜって話さ! オレだって親としては半人前もいいとこだしな……それにこんな大人数、1人でまとめ上げてんだから大したもんだよ。偉そうに言えることじゃねえが、1回くらいこんなことがあっても仕方ないさ」
「そ、そう……ですか? ありがとうございます……」
「わたしも応援してるわ! マレンさん!」
先程よりは表情が明るくなった気がするが、シスターマレンは依然として萎縮気味……というか、こういう人なんだろうか。
母さんの声援に答えて見せた彼女の笑顔は心からのものに感じられたが、それもかなり物腰低く見えた。
「ねーねー、おじさんが『エーユーさま』なの!?」
「お? 元気なのが耐えられなくなったか! そーだぞー、おじさんが絵本に出てくる英雄キョウスケ様だー! あっと、これ土産な」
ジッとしていられなくなった丸坊主の子が、とうとう親父の足元までやってきた。
ずるい……じゃなくて、親父は腰のベルトに引っ掛けていたらしい紙袋をシスターマレンに手渡し、坊主の子を『高い高い』してやる。
……俺もやりたい。
「そそそそんな! わ、わざわざありがとうございます……ええっと、ここでお相手していただくのもなんですので、ひとまず中におあがりください。」
「ん、そか。じゃあそうさせてもらおう」
「よしっ」
おっと、やっとお戯れ解禁かと興奮して声が漏れた。
失敬失敬……冷静になるのだ、子供は逃げない! いや、逃げるかもしれないけど、その時は追いかける!
「お嬢……なんか顔がだらしない」
「むっ!?」
まさか顔にまで出てた!?
流石にそれは……うん、気を取り直していこう。
グレィにだらしのない顔を指摘された俺は、その場でそれはそれは深~~い深呼吸をしてから、前を行くシスターたちについて行った。
仕方ないね、ここの空気美味しいんだもん。
* * * * * * * * * *
この孤児院は、正門から入るとすぐに大きな講堂があり、その両脇から子供の寝室と調理場、それから階段を登った2階にシスターの私室や室内用の遊び場等がある。食糧庫や備品の倉庫が離れで別に用意されており、小さいながらに畑でイモも栽培しているようだった。
しかし遊び場所などお構いなしな子供たちは、俺たちが孤児院の扉をくぐった瞬間に我慢の限界がきて一気に爆発。
20人の子供が一斉に襲い掛かってきて、あっちこっちと引っ張りだこになってしまった。
そんな子供たちの爆発振りを見て、シスターマレンは心労のあまり入り口で立ったまま気絶してしまっていた……が、ごめんなさい。今は子供たちが優先だ。
「すげー! ホンモノだ!」
「はじめてみたー!」
「ねえねえ、ドラゴンってどんななの! おっきい? ちんちんおっきい?」
「髪の毛なげー」
「メイドさん! ご飯作って!!」
「エルフだエルフ!!」
「……ピンク!」
「あらあらにぎやかねぇ~」
「元気なのはとてもいいことです」
「そ、そだな……うん いでででで
こちらは親父、母さん、ミァさんのグループ。
母さんは流石というか、髪の毛を引っ張られたり、ワンピースの中を覗かれたりしても全く動じず……いや流石に注意はしていたが、子供たちの目線に立って会話遊びに持ち込んでいた。
ミァさんはののを面倒見ていた経験があるのでこちらもそれなりに上手く……と思っていたのだが、3人の子供に押されるまま調理場へ行ってしまった。
丁度お昼時だし、しばらくしたら孤児院の食卓にはミァさんの手料理が並ぶことだろう。
親父は先程のツンツンも含めたやんちゃ坊主たち5人にたかられ、それはもうすごいことになっている。頬を抓られ、髪はぐしゃぐしゃにされ、藁を束ねて作られた剣?でポフポフと叩かれ……まさにやられ放題である。
母さんのすぐ隣にいるはずなのに、温度差がまるで違った。
そして、そんな風に達観している俺はと言うと――。
「おねーちゃん、だっこ!」
「あ! ズルい、次オレも!」
「ぼくも」
「じゃあぼくお膝がいい!」
「オイラもー」
「はいはい順番ねー……デュフフ」
講堂の長椅子に腰かけ、寄って来る
まさにそう、ここは……!
「ここは天国に違いない!!」
この世の
ああ、何もかもが愛らしい。
俺、もうここで死んでも悔いはない。
住みたい。
そうだ、シスターに頼んだら通わせてもらえないかな……?
「…………クソガキ共」
「グレィ、なんか言った?」
「な、何でもない」
「そ」
執事が何かものすごく失礼なことを言った気がしたが、今回に限っては水に流してやろう。
今エルナお姉ちゃんは機嫌がいいのだ。
ちなみに俺の側で突っ立っているグレィの元には誰も寄ってこない。
俺の周りに集まる天使たちに嫉妬の目を向けながらじーっと立っているのだ。それによって殺気にも似たオーラが彼の周囲を漂い、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
「絶対手ェ出すなよ」(原文ママ)と強く言ってあるので、粗相を起こすことはないと思うが……ちょっと怖い。
「あ、あいつも大変だな……いっ!? だから
「あらあら」
「ロディー! ヘルーープ!!」
親父も親父で大変そうではあるが、5人のやんちゃ坊主を一度にあしらうのは流石の母さんでもきついのではないでしょうか……温厚な性格は、時にやんちゃ坊主には逆効果になることも多い。
いざとなったら強く出るのだろうが、見る限りまだ相手してあげなさいという様子だ。
ここまでは、ミァさんと調理場に行った3人を除き、全員が男の子だ。
親父に5人、母さんに4人、俺に5人。
残りの3人はと言うと……。
「のーのちゃん、見て見て!」
「おー」
「これも!」
「おー」
「わたしもー」
「おぉー」
えっと、ののに何かを見せ合っているようなのだが……押し花とか、花冠?の様な物、それから……何かのアクセサリー?
見たところ半魔人と獣人と人間が1人ずつなのだが、少し遠くにいるのとののの反応も相まってよくわからない。
まあ、上手くいっているなら何よりだ。
俺は引き続き、この
「何だ? 久々に来てみれば、今日は妙に騒がしいじゃないか」
「……?」
どなた?
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