3:26「リザルト」
六畳ほどの部屋に俺、母さん、ミァさんに親父……それからののが集まる。間を開けて配置されている二つのシングルベッドの間に互いが向かい合うように腰掛けた。
「キョウスケ様、その……」
「なんだよミァ、まだ気にしてんのか? オレが好きでやったんだから、つべこべ言うのは無しでいこうぜ。な!」
「はい……申し訳ありません」
「む……まあいいか」
どうやらミァさんは、一晩親父を外に置いておいたことをかなり気にしているらしい。親父がああ言ったはいいものの、主人を一人部屋の外で放置して自分は中にいたとなれば無理はないだろう。仕方がなかったとはいえ、従者としては気が気でないはずだ。
ちなみにその原因を作ったののは、ミァさんの膝の上に座って大人しくしている。
「まあ……ガッツリ寝てたけどな、親父」
「なんだ、なんか言ったか?」
「なんでもない。それよりなんだよ、話って」
「ん、ああそうだったな。これからの事ちゃんと伝えておこうと思ってな、流石に伝えとかないとまずいだろ? 特にお前ら二人は」
「うっ」
「ご、ごめんなさい……」
念を押してくる親父から目を逸らす俺と母さんを、ののが不思議そうな目で見つめてくる。
その純真無垢な愛らしい視線も今はものすごく心に刺さる。
「おいおい、そんな顔しなくたって大丈夫だぞ? 本当にこれからのことを伝えたいだけだ」
「ほ……本当に?」
「オウ。それについては、ちゃんとウチに帰ってからだ」
「ヴグッ!」
なんだろう……今なんか出ちゃいけない声が出た気がした。
「さて、それはそうとして本題に入るぞ。恵月、ロディ、お前たち二人は、これからオレらと一緒に冒険者ギルドに来てもらう」
「ギルドに? 確かあそこって昨日グラ……ドラゴンの襲撃で半壊してたよね? 大丈夫なの?」
「ああそうだ。ギルドがなくちゃ冒険者はやっていけねえ。早く直さないとな? そのためには一人でも多くの労働者を―――」
「力仕事を女子供にさせないでください!!!」
無理無理! 絶対無理!!
俺の力じゃ精々転がってる石片づけるくらいが精一杯だよ!? 力12なめんな!!
あとあれだ、多分石ころに躓いて転ぶぞ! 運勢値7もなめんな!!
まあ? 後者はなんか振り切れてる母さんといっしょにいることで相殺されている気も……いやしないな、むしろ俺の運のなさに巻き込んでる気がするぞ。何とかなってるのは母さんのおかげだったりするのか!?
「はっはっは、冗談だ。ま、半分は本当だけどな。幸い、レイグラスには世界中からドラゴン討伐の栄誉と報酬を求めて冒険者が集まってきてる。結局そいつらはドラゴンに変えられた挙句に食われかけてただけで何もできてないからな。そんな奴等は報酬があっても雀の涙だし、嫌でも仕事をせんと食っていけん。労力は有り余ってるくらいだ」
「そ……そっか」
「まあ、オレらも笑っちゃいられねえけどな」
「ほえ?」
「昨日の夜、魔導書間でオレ宛にこいつが届けられてな。送り人はギルドマスターのレガルドだ」
間抜けた声を上げる俺に、親父が懐から一枚の紙を取り出して見せる。
そこには昨日の討伐戦の
基本報酬……240万
目標撃破ボーナス……160万G
ラストアタックボーナス……なし
個人報酬……なし
「規約違反罰金
「で、最終的な手取りは20万。ちなみにオレらチームでの合算だから一人頭5万だな」
「な……なして……?」
あんな苦労してたったの5万……!?
「違反の方はまあ、察してくれ。何度も言ってるが、お前たちを責める気はねえ……むしろ感謝してるよ。気を付けては欲しいが」
「うぐっ」
「う、うぅ……」
こう言うってことは十中八九俺たちが無断でついて行ったのが原因なんだろう。合算って言ってたし、一人100万ってことになるのかな?
本当、申し訳ねぇっす。
「雑費に関しては事前にオレから言ってあったものだから気にしないでくれ。まあ、ギルドの補修とかの為に大分多く取られちゃいるが問題ねえ」
「は……はぁ」
「言ったって、これでも貰ってる方……ていうか、多分俺らが一番多いと思うぜ? 今頃他の連中、憤慨してギルドに押しかけてる頃じゃねえかな」
「か、考えたくもない」
これ以下って……流石にそれはひどい。
まあ、実際何もしてないに等しいんだから報酬がなくても文句は言えないというのはわからなくもないことではあるけど。
「それにあんな終わり方だ、本来手に入るはずだった物も手に入ってねえ。オレはレガルドの気苦労の方が心配だな」
「手に入るはずだった物?」
「フォニルガルドラグーンの素材」
「あぁ……」
確かに目標は達成した。
でもフォニルガルドラグーン――グラドーランは最期の時、人型になってしまったのだ。本来はぎ取れるはずだったドラゴンのウロコや皮、牙やその他希少部位などなど、失ったものがあまりにも大きい。
この世界に置いてもドラゴン……特に今回の様な大型の物は貴重な存在なため、もちろんその素材の価値は計り知れない。
しかも王様と言われるだけのものだ、俺にその価値がそれほどのものかまでは分からないが、あり得ないほど莫大な損失を生み出してしまったということだけは理解した。
それを考えてみれば、プラスが少しでもあるだけまだマシとすらも思えてくる。
「まあ、残った20万も寄付する予定だけどな」
「え!? なんで!?」
「んー、ぶっちゃけオレら働かなくても孫の代までは暮らしていけるだけの金はあるからな。そのくらいは……」
「………………」
「きょーすけ、おかねもち」
「そーねぇ」
母さん、あんまり驚いてないっすね……さては知ってたな?
つーか孫の代までって……一体何をしたらそんなに稼げるってんだ?
魔王でも倒したんですか?
そうなんですか?
そりゃ英雄って呼ばれてるくらいですもんね!?
……て、そう言えばミァさんもその仲間だったって言ってたよね。
俺の視線が、ちらりと向かい側に座っているミァさんの方へ向く。
ミァさんはそれに応えるかのようにニッコリと笑顔を見せてくれたが……俺は怖くてすぐに目を逸らしてしまった。
オミワラ家、資産どれだけあるんだ……?
俺の目が放れた直後にミァさんが何処か沈んでしまったような、元気がなくなってしまったような気がしたのは気のせいだろうか。
「ま、そういうこった。ギルドに行ってファルと合流、そしたらあらためてレガルドの話を聞いて、ひと段落したら屋敷に帰る予定だ。オレら四人……ああ、恵月とロディ、それからのーのちゃんを抜いてな。四人はギルドの修理を手伝うかもしれんが……それからはまたしばらくゆっくりできると思うぜ。場合によっては王宮に呼ばれたりするかもしれねえから、そこだけ頭に置いといてくれ」
「王宮! それってお城よね!」
「母さん、なんではしゃいでんの……」
俺たちが呼ばれるって、しかも今って、正直嫌な予感しかしないんだけど?
自業自得とはいえ。
「おう、ここの城はすげーぞー、まさにファンタジーって感じだ」
「ほ、ほう……」
興味がないわけじゃないけど、そうじゃない。
先が思いやられる中、俺たちは足早に宿を後にする。
既に昨日のことが町中に広まっているのか、道を通り行く人々の話題はドラゴン討伐とギルド半壊の事で持ち切りになっているようだった。
そしてそんな大きな作戦の翌朝に親父が王都にいるとなれば、その周りにはわんさか人が集まってくる……関わってないわけがないとばかりに。
しかし親父は慣れた手つきでこれをあしらっていくと、まるで思い出したかのように俺たちに言ったのだ。
「あ! そういや言ってなかったけどよ! これもレガルドからのお達しで、のーのちゃんしばらくウチで預かることになったからよろしくな!」
「…………は?」
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