運動公園1

     ◇


 晴天せいてんにめぐまれた休日ということもあり、運動公園は家族連れでにぎわっていた。


「方角的に野球場じゃなくて広場のほうかな……」


 一行を先導する土井どい先輩が誰に話しかけるともなくつぶやいた。視線の先には、スマホの画面に映し出された地図がある。


 多種多様な施設をかかえる運動公園は、迷路のように通路が入り組んでいて、地図なしで目的地にたどり着くのは、ひと苦労かもしれない。


「何か楽しいですね」


 後ろを歩いているつじさんが、無邪気な笑みを見せる。UFO探索というよりは、文芸部の部員がせいぞろいし、校外で活動していること自体が、楽しくてたまらないのだと思う。


 辻さんは一年後輩に当たる小柄な女の子だ。笑顔の絶えない明るい子で、その天真爛漫さと社交性を武器に、入部から三ヶ月足らずで、すっかり文芸部にとけ込んでしまった。


 そのとなりを歩く小谷こたに先輩は、土井先輩と同じく三年生で、文芸部の副部長。女性としては比較的長身で、体型はスレンダー。肩口までのびたストレートの黒髪からは気品をただよわせている。


 物静かで大人びた性格だけど、意外に気が強い。面倒見の良いしっかり者なので、辻さんから姉のようにしたわれている。


「それにしても、小谷くんがこんなことに興味を持つとは意外だったな」


 土井先輩の疑問に自分も同感だ。まじめで冗談を好まず、推理小説をこよなく愛する小谷先輩が、なぜUFO云々うんぬんの話に関心を示したのだろう。


 小谷先輩はその理由をこう説明した。


「十数年前に、高校生が集団で失踪しっそうした事件があったでしょ。少し興味があったから、事件のルポを半年ぐらい前に読んだの。そうしたら、その本の中でこの公園の話が結構出てきてたから、一度行ってみたいなって、前から思ってたの」


「そういえば、この公園で一緒にいるところを、目撃されてたんだっけ」


 その話は自分も知っている。近所で起きた大事件として、小さい頃から、事あるごとに耳にした。とはいえ、事件が起きたのは自分が生まれる前のこと。今まで、強い関心をいだいたことはない。


「何で、こんな早い時間に来たの? 明るかったらUFOなんて探せないでしょ?」


 時刻はまだ午後二時を少し回ったところ。木陰に逃げたくなるざしが健在だ。小谷先輩の指摘通り、発光物体を探索するには、間違いなく不向きな条件下だ。


「UFOは血眼ちまなこになって探せば見つかるものでもないし、気長きながに現れるのを待とうじゃないか。ここの目玉なら他にいくらでもあるし、最近は超常現象が頻発ひんぱつしているらしいから、明るいうちに見て回っておきたかったんだ。何なら、先に失踪事件ゆかりの場所を回ってもいいよ」


「後回しでいいわ」


 小谷先輩はそっけなく申し出を断った。


「あと、太田おおたくん。昨日、ネットで調べてみたんだが、UFOらしき目撃情報は見つからなかったよ。だから、どうせ野球場のライトか何かを見まちがえたんだろう、と半信半疑だったんだけど、こっち方面に、それらしきものは見当たらないか」


     ◇


 それから、土井先輩の案内で公園内を散策した。目的地に着くたび、事前に調べてきたとうい超常現象ネタが披露される。


 それは、ある樹木の根元付近だけこおりついていた話や、風でなぎ倒された雑草が、ミステリーサークルばりのうず巻き模様をえがいていた話など。


 二時間も経過した頃には話の種がつきた。敷地内もあらかた回りつくし、UFOにめぐり会うこともかなわなかった。


 僕らは運動公園の西側に位置する広場で、足を休めることにした。そこはUFOを目撃した方向にあることに加え、くだんの高校生達が、失踪前日に集団でいるところを目撃された場所でもあった。


 広場のベンチでひと息入れると、元気のあり余っていた辻さんが、退屈しのぎにクイズを始めた。


「あれは何でしょう」


 広場を囲む樹木や草花を指さして問題を出す。二人の先輩が、すずしい顔で解答を競い合う。張り合う知識のない自分は、傍観者を決め込んだ。


 自分が言い出したのではないけど、このままでは立つ瀬がない。発光物体の出現を切望し、うらめしそうに空を見上げる。


 夏至げしからまもない時期の太陽は、辻さん以上にランランとしていた。軽くため息をつき、空から目を戻そうとした――その瞬間、かすかな違和感をおぼえ、広場の片隅で目がとまった。


 目をこらしてみると、草むらの一角から、黒いひと筋の煙が弱々しく立ちのぼっていた。

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