エクスチェンジ(前)
◇
――と、あわてて振り向くも誰もいなかった。
前を向き直ると、女がナイフをかざして襲いかかってきた。
すかさず
女は飛んだ。物理的に飛んだ。えっ、飛べるの!?
女は二階の手ぜまな通路に飛び乗った。あんなこともできるのか。ただ、壁に衝突したあげく着地にも失敗し、使い慣れた感じはしない。
「空を飛べるのはあなただけの
このままだと有効範囲からはずれてしまう。再び『かまいたち』を放ってから、後を追って通路へ飛び乗り、能力無効化を展開したまま追いかけた。
女は近くの扉に逃げ込んだ。
◇
大広間から廊下へ入った。すぐにまがり
とっさに床をころがって回避する。おどろかすことにかけては、本当に天才的だ。
女は窓から屋敷の外へ飛びだし、崖のほうへまっすぐ走って行くと、迷いなく飛び下りた。
能力無効化の有効範囲からはずさない。自分も後に続いて、重力無効化に切りかえるのをギリギリまでねばった。
女はどうなった。
もう上に戻ったかもしれない。息を整えながら、丘を見上げる。そこから目を戻す途中、岩かげから人の足がのぞいているのに気づいた。
そこで倒れていたのは女だった。目をそむけたくなるほど姿になり果て、
おそらく、地面との衝突前に
女は死んだ。
そうだ。急いで上に戻らないと。クレアとヒューゴがまだ戦っている。
◆
女――サイコは遠く離れた屋敷にいた。彼女は地面に落下した後、戦闘中から送られ続けた『
能力名は
つまり、サイコはあらかじめリンクをつないだ人物と『
サイコの『魂』が入る体は、国側の一兵士のもので、マイケルという名だ。サウスポートで働く役人だった彼は、以前からハンプトン商会と持ちつ持たれつの深い関係にあった。
マイケルはその
ならば、なぜ
カラクリはこうだ。マイケルは主に部隊と部隊をつなぐ連絡役を務め、自由に戦場を移動できた。そのかいあって、味方の動きが手に取るようにわかった。
元の体に戻った後、サイコは屋敷の兵士を記録した座標へ送った。伏兵を回収する場合は、事前に落ち合う場所を決め、サイコとマイケルが再び『交換』を行えば良い。
これが国側を
また、この戦法はサイコが〈
サイコの眼前には『相手が交換を要求しています』という表示がくり返しポップアップされていた。
崖下に横たわるサイコの体は、もはや動かせる状態にない。それにおどろいたマイケルは『交換』要求を送り続けたが、サイコは無視した。
「うるさい男ね。『
魂の『交換』は
その上、解除にはおたがいの同意が必要なため、自身の意志だけでは、元に戻ることができない。
「さてと。かわいそうだけど、デリックのことは見捨てましょ。なかなか使える男だったけど、もうトリックスターの相手はコリゴリ。もう十分役目は果たしたし、新しい『器』でも見つけて、さっさとここを引き上げましょうか」
スプーやネクロと同じく、サイコも『エーテルの怪物』だが、その事実は周囲にひた隠しにしていた。
デリックたちはもちろんのこと、能力の共有を行う仲間にさえ知らせず、普通の人間をよそおっていた。
サイコがいるのは国側が
しかし、
ふと、サイコがある部屋の前で足を止めた。部屋の中にいたのはパトリック。『最初の五人』たるヒプノティストだと、すぐに気づいた。
サイコはウォルター、パトリックをのぞいた残りの三人と、基本的に友好的な関係をきずいている。ただ、敵
かたわらにいるのはローブを着た男――ロイのみ。魔導士の姿は見当たらない。その時、パトリックがサイコの存在に気づき、隣りのロイに小声で話しかけた。
サイコは
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