不審者調査(前)
◇
二日あまりの
身動きの取れない馬車で座りどおしだったせいか、全身がダルい。まだ
ストロングホールドの人口はレイヴンズヒルの三分の一程度。
製鉄業がさかんなため、工場的な
元々は軍事目的に築かれた防衛拠点らしく、街全体に
街の中心に位置するのが
パトリックはそこへ現状の確認に向かい、僕らは隣接する宿舎で待機した。いつでも『交信』できる態勢を整えているので、自由気ままに行動できる。スージーの能力のありがたみを実感した。
夕食前に戻ってきたパトリックから報告を受けた。いまだに手がかりが見つからず、〈樹海〉の奥深くまで捜索の手をのばすかどうかで、意見が
単なる
やはり、この国のトラウマとなった五年前の事件――中央広場事件へと続く、
まあ、僕らがとやかく
◇
翌日、僕とコートニーはさっそくゾンビの対応にかり出された。
アカデミーの研究員であるコートニーは、ゾンビ調査の
「二人とも気をつけてくださーい」
「ゾンビによろしくな」
ロイとスージーに見送られ、宿舎を後にする。ちなみに、二人は今日一日ストロングホールドの街を散策する予定だ。
指示にしたがって中央庁舎の大広間へ向かうと、数十人の魔導士がグループを作って待機していた。どこどこへ向かえと、ちょうど指示を出されているグループがいる。
コートニーと一緒に待ちぼうけしていると、制服のデザインの違いに気づいた。一族の違いを表す色つきのラインが、より多く、より太くぬい込まれている。
後から知ったことだけど、ストロングホールドを拠点に活動する魔導士は、大自然の中でゾンビを相手に活動するため、
ふと同じ制服に身をつつむ一団を見つけ、その中に知っている顔があった。ユニバーシティで序列二位のクレアだ。
彼女とはデビッドとの試合後に出会い、試合の約束を強引に結ばされた。なので、これまで城内で見かけても、なるべく顔を合わせないように気をつけてきた。
「あれ、どうしてあなたがここにいるの?」
「
クレアのほうから声をかけてきた。聞けば、彼女は
「彼女は?」
ただ一人、ユニバーシティの制服を着ていないコートニーに、クレアが興味を示した。
「彼女はアカデミーの研究員です。ゾンビを研究していて、その調査のためにここへ来ています」
「へぇー、アカデミーの研究員なんだ。じゃあ、頭がいいのね?」
「まだ見習いですけど」
自分同様、パトリックが無理矢理ねじ込んだ
「クレアもゾンビの対応を?」
「そうよ。私はゾンビの相手じゃなくて、〈樹海〉のほうへ行きたいんだけどね。もしかしたら、『樹海の魔女』に会えるかもしれないのに。でも、
クレアが不満げに述べた。やはり、『樹海の魔女』の存在を信じ、興味を持つ人間が一定数いるようだ。
その時、三人組の男がクレアに話しかけてきた。
「
まん中にいたリーダー
「もちろん、おぼえてるわ」
親しくはないものの、クレアと
「君に頼みたいことがあるんだ」
そう
三日前に、〈樹海〉の西にある
すると、不審な男が火の魔法を延々と――狂ったように発動していて、その様子に狂気を感じた若者は、その場から逃げ出した。男の顔は確認していないものの、魔導士の格好だったのは確からしい。
「その不審者について調べたいから、協力してくれないだろうか」
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