不審者調査(中)
◇
「興味深い話ではあるけど、今回の事件と関係ある?」
クレアは
「無関係とも言いきれないんじゃないか?」
「でも、行方不明の魔導士って〈
〈転覆の国〉の
トレイシーによれば、廃村の場所はストロングホールドの北西に位置し、〈樹海〉でつながっているとはいえ、
「キースを手にかけた魔導士、もしくは別の被害者の可能性もある。まあ、猫の手も借りたい非常時に、そんな
「でも、そいつを捕まえたところでどうにかできる?」
クレアの言う通り、話を聞いたかぎりでは
「廃村で
クレアが首をかしげながら、うなるようなため息をもらした。
「それで、私に声をかけた理由は何かあるの?」
「なるべく俺のチームだけで対処したかったが、あいにく攻撃役のラッセルが未熟者なんだ。それで、同じ火の魔法をあやつり、
トレイシーの脇に控える男――ラッセルがていねいに頭を下げた。年齢は二十代前半でクレアと同じ〈
「僕のほうからもお願いします。キースの
「ラッセルはキースと最後に行動を共にしていたから、責任を感じているんだ」
「……わかったわ」
ラッセルの思いに打たれのか、クレアが引き受けた。
「ただ、二つ条件を出させてもらうけどいい? 一つは今日と明日で決着がつかなかったらあきらめること。もう一つは、このウォルターを一緒に連れて行くこと」
いきなり話をふられたので
「こう見えて、彼はジェネラルの座をねらっている
クレアがイタズラっぽい笑みをうかべ、こちらを
「そんな彼が協力してくれるのなら願ってもないことだが……」
しばらく頭が混乱したものの、クレアの
当面の目標は
確認のため、そばのコートニーに視線を送った。
「ウォルターが決めていいよ」
彼女の同意が得られたので、トレイシーにこう告げた。
「協力します」
「ありがとう」
そう応じたトレイシーと握手をかわす。
「すぐにでも出発したい」
トレイシーの意向を受け、大急ぎでパトリックのもとへ断りに行った。そこで、
「ダベンポート家は北部の
◇
ストロングホールドを総勢六名のパーティーで出発した。道中、二人きりで話せるタイミングを見計らって、トレイシーに話を向けた。
まずは、ベレスフォード卿が推進する
「俺自身は興味がないから距離を置いているが、父親が強硬に反対しているし、協力するのは別にかまわない。その代わりにと言っては何だが、今度の
好感触の反応を得られて喜んだのもつかの間、思いがけない条件がくっ付いてきた。
話を向けられた時点では知らなかったけど、対抗戦は約一ヶ月後にせまったカーニバルに合わせて行われ、全国各地から魔導士が集まる交流戦らしい。
「あのクレア・バーンズが
トレイシーの出した条件に、当然たじろいだ。話しぶりから察すると、彼が相当の実力者であることは疑いようがない。
そうはいっても、試合をするだけなら安いものだし、それで心強い協力者が得られるなら、
「何の話をしてるの?」
「彼と試合をすることになったよ」
「ちょっと、私が
話を聞いたクレアが、ムッとした表情を見せた。約束をはっきりおぼえていても、同意したつもりはない。
「何言ってるんだ。今度のは対抗戦だろ?」
「あっ、そっか」
「じゃあ、その次は私だから、他の人と勝手に約束しないでね。対抗戦が終わったら、すぐに申し込んでおくから、そのつもりでいて」
やっかいなことになった。たちまち後悔の念につつまれたけど、アシュリーのためにジェネラルの座をめざすと心に決めたじゃないか。そのためには、クレアでさえ通過点にしなければならない。
そう自身をふるい立たせたものの、頂点でなくとも、序列五位ぐらいで結構な権力を得られるんじゃないかと、考えなくもなかった。
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