不審者調査(後)
◇
廃村はストロングホールドから十キロほど北西に行った場所にあった。三年前に近隣の村と
その理由は『
馬に乗って廃村までやって来た。実は、仕事の手があいた時に、スコットから乗馬の訓練を受け、馬を乗りこなせるようになった。コートニーは自分の後ろに乗せている。
途中から、不審者を目撃した若者も同行している。近隣の村に住む彼は元々廃村の住人で、豚の放牧地として廃村を利用しているそうだ。
若者を案内役に、廃村へ足をふみ入れる。二年前まで住人がいただけあって、建物は
ただ、
「廃村にするなんて、もったいないわね。立派な屋敷も残ってるじゃない」
クレアがひと際目立つ
「仕方ないさ。廃村前から人口が半分近くに減ってたそうだから」
村の中心に位置する
「あの辺りにいました」
案内役の若者が広場の
「村の外からでも見える場所だな」
「不審者は目立ちたがり屋なのかもね」
クレアが冗談っぽく言った。それからしばらく、各自思い思いの方向を見やり、不審者の姿をさがした。
「この辺りの貴族で心当たりない? 火の指輪を持っていて、そういうことをやりかねない変人魔導士とか」
「あまり貴族の方々に詳しくないのですが、この辺りを治めるのは〈
「
「この辺りに詰所はありません。ストロングホールドから直接来れますから」
「そういえばそうだったな」
トレイシーはバツが悪そうに頭をかいた。
各地に
案内役の若者はここで
「不審者がこの村に
そう言ったトレイシーが僕のもとまでやって来た。
「クレア・バーンズに目をつけられるほど優秀とはいえ、風の指輪で無茶は
事実、風の指輪ではゾンビ相手でも足止めぐらいしかできない。不審者と交戦するような事態は考えたくない。
「君は指輪を持っていないのか?」
三人組の男の一人――ギルが
ギルの年齢はどのくらいだろう。見た目は二十代後半だけど、落ち着いた
目がすわっていて
「彼女はアカデミーの研究員なので魔法が使えません」
すかさずフォローしたけど、ギルの不審感は
「ゾンビがこの辺りに出たりしないんですか?」
「もうここには住人がいないから、新たに出現する確率は少ないだろうね」
話をそらすと、代わりにラッセルが答えてくれた。
「しかし、〈樹海〉をさまよい続けたゾンビが、突然姿を見せることは十分に考えられる。くれぐれも彼女を一人にしないように」
ギルからぶっきらぼうに注意されただけで、その場はやりすごせた。
クレアとトレイシーが〈樹海〉に近い東側、ギルとラッセルが北側、僕とコートニーは旧領主の屋敷がある西側を担当することに決まった。
◇
コートニーと二人で村の探索を始めた。
「のどかな場所ね」
二人きりになると、久々にコートニーが口を開いた。ボロを出さないようにするためか、彼女は僕のかげに隠れて、なるべく話しかけられないように努めていた。
「ちょっと中を見てきますね」
雑草を分け入って、廃墟と化した
その後、何軒か見て回った。大半がワンフロアのシンプルな作りなので、建物に入る必要性は感じなかった。
「ゾンビというよりは幽霊が出そうですね」
コートニーの反応がないため、後ろを振り向いた。彼女は少し離れた場所で無警戒に辺りを見回している。どこか公園を散歩するかのような雰囲気だ。
「怖くありませんか?」
「少しは怖いかな」
コートニーにおびえるそぶりは一切ない。民家のかげから、今にもゾンビが飛び出してきそうなので、自分は結構ビビっている。
おばけ屋敷とかに入っても、こんな感じなのだろうか。後輩である僕の前で、情けない姿を見せたくないだけかもしれない。
「ねえ、人が少ない場所ほどゾンビ化しやすいのって、どうしてだと思う?」
「空気がおいしいとダメ……とかですかね」
見当もつかないので冗談半分に答えた。
「他には?」
お気に
「さみしいとダメ……とか」
「都会の人はさみしくないの?」
ゾンビ化については、
「何らかの
コートニーは真剣な表情で考え込んだ。推理小説好きの血がさわぐのかもしれない。
「そうね。まずはゾンビ化の謎を解明するのが先ね」
当てどなく道なりに進み、僕が民家のある左手に、コートニーが放牧地のある右手に警戒の目を向け続けた。
やがて見えてきた旧領主の屋敷に、二人して見とれた。けれど、窓という窓はぬけ落ちているし、屋敷を囲む石塀もくずれかけているし、近づいてみるとヒドい有り様だったけど。
屋敷の前を通りすぎて、しばらく行くと、前方へ目を戻したコートニーが、ふいに立ち止まった。表情を曇らせたのを見て、彼女の視線を追った。
すると、道のまん中で、男がぼんやりと立ちつくしていた。
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