謎の能力(前)
◇
異世界にたどり着くなり、さっそうと起き上がった。
「二人はどこに現れると思う?」
「……僕達はベーカリーの屋根裏部屋でしたよね」
「急ぐぞ!」
ロイにガッと肩をつかまれ、引き気味にこう言った。
「……ロイって、そんなキャラでしたっけ?」
階段をかけ下りて新居を飛び出した。
「君が様子を見てきてくれ」
あれだけ張りきっていたロイが、
「えっ!?」
短い言葉に抗議の気持ちを目いっぱいにこめた。男なのだから見たいという気持ちは当然ある。ただ、後々が怖いという気持ちが、少しだけまさっていた。
「ほら、僕はダイアンさんと親しくないし、それに全力で走ったら、どんよりとした感情が残らず
口ではロイに一生勝てないかもしれない。
屋根裏部屋に恐る恐る顔を出すと、思いがけず女性の
ちょうどダイアンが着替え途中で、ワンピースの肌着を胸元までたくし上げたところだった。
あわてて頭を引っ込めようとするも、勢いあまって
「いて!」
さけび声を上げながら、ハシゴからすべり落ちた。
「大丈夫か?」
二階の床に尻もちをつき、ロイに抱き起こされる。立ち上がる途中、屋根裏部屋からそそがれる視線に気づいた。
ダイアンが怒りと
「何か用?」
ただ、心持ち
単なる事故と考えてくれたのか、大人の対応をされた。
着替え終わったダイアンに事情を説明した。
「また別の子を連れてくるってことね?」
「はい」
「どんな子なの?」
「二人とも同年代の女の子です」
「へぇー、女の子なんだ」
「こっちに来てから、もう十五分はたったよな?」
「いったん、家に戻ってみましょうか」
ダイアンに二人が来たら連絡をくれるよう頼み、僕達は新居へ帰ることにした。
◇
「あっ、いましたよ!」
近所まで戻ってくると、聞きおぼえのあるハツラツとした声が耳に届いた。
「センパーイ!」
目を向けると、
当ては見事にはずれた。素直に部屋で待つのが正解だった。本来は喜ぶべきところなのに、何とも言えない雰囲気になった。
ただ、二人が上半身裸でなかったのが、せめてもの救いだ。ロイと無言のまま二階へ上がると、ランランとした辻さんがかけ寄ってくる。
「ここが先輩達の言ってた異世界ですね。私は信じてましたよ!」
僕達の手を取った辻さんが全身で喜びを表現した。
「二人はどこに行ってたの?」
「別の場所にいるかと思って、二人をさがしに行ったんです」
「君達、その服はどうしたんだ?」
ロイが
「最初から着てたけど?」
「ちなみに、このベッドで目が覚めました」
自分が彼女達を連れて来たのだから、寝ていた場所に現れたということか。二人が着ているのは白いワンピースの肌着。飾り気のない
「一階も見たけど、あまり生活感がないのね」
「おととい引っ越してきたばかりですから」
まだ一度も休日が来ていないし、ここは朝食と夕食をとって、寝るだけの場所にすぎない。
「私、外を見に行きたいんですけどダメですか?」
「その格好はマズいだろ」
確かにマズい。パジャマで外へ出るようなものだ。とはいえ、事前の準備をしていないので、二人に着せる服がない。
男物を着せるのは最終手段だ。すぐに服を買いに出ようと考えるも、服屋がどこにあるのか全くわからない。
手持ちのお金で足りるのか、買い物に行って始業時間に間に合うのか。続々と問題が
救いの女神がやって来たのはそんな時だ。
「誰かが呼んでるわよ」
最初に気づいたのは小谷先輩。窓から外を見ると、ダイアンが僕の名前を呼んでいて、両手いっぱいの荷物をかかえている。
「その子達がそうなのね。パンは多めに持ってきたの。あと、新しく来た子がまた裸なんじゃないかと思って、念のため、私の服を持ってきたんだけど」
感激するほどのダイアンの気配りだった。二人との対面を済ませてから、すみやかに着替えに入った。
「見てください、見てください」
ダイアンと体格が似ている辻さんはピッタリ。辻さんの喜びもひとしおで、ワンピースの
ひるがえって、比較的
どちらかと言えば、こっちのほうが見慣れているから違和感はないけど、なぜか微妙な空気になった。
せっかくなので、ダイアンに二人の名づけ親になってもらった。
「コートニーと、スージーなんていうのはどう?」
僕らと同様、名字と音のひびきが似た異世界風の名前に決まった。
「それで、ウォルターは二人とどういう関係なの?」
ダイアンが探るような目つきをしている。僕は押しだまった。正確に言えば、話したくても話せなかった。異世界の話を現実で話せないし、現実の話を異世界で話すこともできない。
「どうしてだまったの?」
「君達、言えないような関係だったのか?」
「別にやましい関係じゃないです。ほら、話せないんですよ」
「ああ、君はこっちでもそうなるのか」
そんなわけで、ロイが代わりに説明した。例え話をまじえたとはいえ、同じ高校に通う部活の仲間というのが、理解してもらえたかはあやしい。
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