謎の能力(後)

     ◇


 朝食を済ませてから、小谷こたに先輩あらためコートニー、つじさん改めスージーを、ロイの時と同様にパトリックのもとへ連れて行くことにした。話自体は数日前から通してある。


「スゴいですね。夢みたいです」


「実際、夢みたいなものだけどな」


 ロイが何かと話題にしていたので、 二人は異世界のことをだいたい把握していたけど、やはり目の前にするとわけが違うようだ。コートニーも街なみに見とれて、言葉を失っていた。


学長がくちょうのところへ行く前に、二人の能力を確認しておきませんか?」


 二人の能力を確認すると、こんな内容だった。


 能力『〈分析〉アナライズ

 説明『有機物ゆうきぶつ無機物むきぶつを問わず、物体の詳細情報が参照可能』

 制限『対象との接触が必要。有機物にかぎり、瞳の直視ちょくしで簡易情報が参照可能』


 能力『〈交信〉メッセージング

 説明『リンクを確立した対象と距離・遮蔽物しゃへいぶつの影響を受けずに無声むせい交信が可能』

 制限『リンクの確立かくりつは対象の同意が必要。リンクの保持は三名まで。複数対象との同時交信は不可』


 僕が実験台となり、まずはコートニーの〈分析〉アナライズを使ってみることになった。


「どうやって使うかわからないんだけど」


「たぶん、『見えろ』とか考えれば見えるよ」


 ロイの適当なアドバイスで十分だった。


「あっ、見えた」


 僕の瞳を見つめたコートニーがつぶやいた。


「『性別:男』、『年齢:17』、『種族:人間』。それだけね」


「簡易情報ならそんなものか」


「詳細情報は体にふれればいいんでしたっけ?」


 コートニーが僕のうでへ遠慮気味に手を当てて、空中へ目をこらす。どうやら、顔の手前てまえ辺りに表示されているようだ。


「身長と体重と……、『能力:〈悪戯〉トリックスター』。あと、下のほうに変なことが書かれてる」


「変なことって何ですか?」


「『能力:? 術者じゅつしゃ:? アクセス権限けんげんがありません』っていうのが四つならんでるの」


「アクセス権限がない……」


 それだけではわけがわからないので、ロイに使用してくらべることにした。


「身長と体重は内密ないみつに頼むよ」


「興味ないから安心して」


 二人は長い付き合いだけど、仲が良いのか悪いのかわからない。ヒヤリとするやり取りをするし、わざわざ僕やスージーをかいして会話することも多い。


「『能力:〈委任〉デリゲート 術者:太田おおた』って一つだけ表示されてる」


「ここへ来る前に君にかけられたアレか。現実での名前なのがミソだな」


 念のため、スージーにも使用すると、ロイと同様の結果だった。


「要は、他人からかけられた能力ってところか。つまり、ウォルターは正体不明の能力を四つもかけられているわけか」


「心当たりはあるの?」


「全く身におぼえがありません」


 うすら寒い思いだった。異世界へ来るようになったことと関係がありそうだ。仮にそうだとしても、四つは多すぎないだろうか。


「私の能力も試してみましょう」


 次はスージーの能力を試す。聞くかぎりでは、携帯電話みたいな能力だ。


「何も起きません」


 コートニー相手に使おうとするも失敗に終わる。リンクを確立した対象と『交信』できるそうだけど、その方法がわからなかった。


「おたがいに口で言ってみたらどうかな?」


「リンクを確立しましょう」


 それにコートニーが同意すると、『リンクを確立しますか?』とのメッセージが表示されたようだ。さらに、確立後の表示をスージーがこう説明した。


「ここら辺にコートニーの名前が表示されて、右側に『解除』っていうボタンがあります」


「そんな感じの操作パネルなら、僕のにもあるぞ。複数の物を『梱包こんぽう』した場合、どれを解くか指定できるんだ。まあ、思いうかべるだけでもできるんだけどな」


 いよいよ〈交信〉メッセージングを試す時が来た。


「もしもし?」


 スージーが声に出した。


「口に出したら意味ないだろ」


 ロイがすかさずツッコんだ。その後、息がつまるような沈黙が続いた。


「できました! 心の中で話せました」


「心に思ってることまで、つつぬけになったりしないんですか?」


 ふと気になったので質問した。心の声が全てまるこえになったら、とても使う気になれない。


「相手に話そうと思わなければ、大丈夫みたい」


     ◇


 パトリックの屋敷に到着した。二人とその能力のことを説明すると、パトリックはコートニーの〈分析〉アナライズへ、特に強い関心を示した。


「私にも使用してみてください」


「――ウォルターと同じで、アクセス権限のないものが三つあります」


「ウォルターは四つじゃなかったか?」


 数の違いはあれど仲間ができた。パトリックのほうに共通点が多いのが謎だ。


「そうですか。一つだけなら心当たりがあるのですが……」


「ちなみに、それは何ですか?」


「自分で自分にかけている『暗示あんじ』で、アクセス権限がないと内容を確認できないのです。解除自体は可能ですが、自分で自分にかけたからには何か意味があるのだと思い、十数年以上ほうっておいているのです」


 自身に対する信頼と信念がスゴい。見習いたいと思った。


 パトリックは二人の処遇しょぐうに頭をかかえた。そばに置きたい気持ちが強くても、さすがに三人の助手をかかえる余裕はないのだろう。


 始業時間がせまってきたので、結論を聞くことなく、単身たんしんレイヴン城へ向かうことになった。


「お城へ行くんですか?」


 スージーがうらやましがった。


「お城と言っても、要塞ようさいみたいなところだよ」


「やたらに城壁が高いしな」


「連絡用にスージーとリンクをつないでおいたらどう?」


 コートニーの提案に乗り、リンクをつないだ後にレイヴン城へ出発した。


    ◇


「今、三人で街を散策しています」


「ロイがお使いを頼まれて、一人で出かけました」


「ダイアンと一緒に買い物へ行くことになりました」


 そんな感じで、スージーが事あるごとに実況じっきょう中継ちゅうけいしてくれたおかげで、日中にっちゅうの三人の行動はだいたいわかった。


 パンの配達を終えたダイアンが昼すぎに顔を見せ、食材の買い出し場所を案内してくれた上に、調理方法のメモまで用意してくれたらしい。


 できるだけ、スージーの『交信』には返答していた。思わず笑みがこぼれるようなことを言ってくるので、スコットやケイトから、たびたびあやしまれた。


 あと、コートニーの〈分析〉アナライズは、壁や床にふれれば使用された木材や石材がわかり、道ばたにころがる石の成分せいぶん分析もできるらしい。


     ◇


 終業後にパトリックの屋敷へ寄った。ロイ達は先に帰っていて、ダイアンと一緒に夕食を作っていると報告があった。


 コートニーとスージーの処遇は、まだ結論が出ていなかった。けれど、パトリックはこんなことを言っていた。


「コートニーをアカデミーに入れられないかと考えています」


 またもや危ない橋を渡ろうとしていた。まあ、前例ぜんれいである自分が何不自由なくやっていけてるし、コートニーの能力は学術研究で遺憾いかんなく力を発揮しそうだけど。

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