サイコキネシス(前)
◆
ヒューゴは
ほどなく、壁ぎわの小さなテーブルに置かれた
しかし、十秒ほど後に同じ花瓶がゴトンと突然倒れ、テーブルの上をころがりだした。あげくに床へ落ちて、パリンと大きな音を立てて割れた。
「申しわけありません」
使用人がそそくさと片づけへ向かう。ヒューゴはおどろいた様子で立ち上がって、
その時、首すじをなでられるような感覚がヒューゴを襲った。背後を振り返ったが、誰もいない。彼はキツネにつままれたような顔つきで、奇妙な感覚の
ヒューゴは気のせいだと考え、先ほどと同じイスへ腰を下ろした。うわの空でテーブルの上に目を落とすと、今度はおぞましい言葉が耳もとでひびいた。
「予告――あなたはそこのナイフでさされて死ぬ」
ヒューゴは身の毛のよだつ思いで、とっさに後ろを振り向いた。だが、やはりそこには誰もいない。しかし、ささやき声は鮮明で、声だけでなく、耳に
「何か言ったか?」
「はい?」
まだ破片を集めていた使用人が、立ち上がって目を丸くした。
正体不明の声がナイフに言及したのを思いだす。探してみると――見つかった。長テーブルの反対側のはしに、ナイフがポツンと置かれていた。
いつからあそこにあったかは
抜き身のナイフが不気味に光を反射する。ヒューゴは目が離せなくなった。ひとりでに動きだし、今にも襲いかかってきそうだった。
そして、予感は的中した。
突然カタカタと振動を始めたナイフが、
やがて、ナイフはピタリと静止した。その切っ先はヒューゴにねらいを定めていた。
女の能力は〈
サイコの
その名の通り、〈
ヒューゴの
ヒューゴは『電撃』を放って
ヒューゴは身をひるがえしてナイフを
ヒューゴは
◇
スージーを会場まで送り届けると、すでにロイは戻ってきていた。パトリックが話を聞きたそうにしていたけど、話が長くなるので
「みんなでここにいてください。絶対に一人にならないでくださいね」
そう言い残して、会場を飛びだした。ここへ戻る直前、デリックと一緒にいるヒューゴとすれ違った。あの女とデリックが
ひと部屋ごと立ち止まって、中へ
部屋の前にたどり着いた。そこは食堂で、すぐさま異状に気づいた。そばの壁にはナイフが突きささり、おびえた様子の使用人が、長テーブル脇で身をひそめている。
そして、あの女が部屋の奥にたたずんでいた。
女に気を取られていると、何かが視界のはしで動いた。
「ヒューゴ!」
長テーブルのかげに隠れて気づかなかったけど、ヒューゴが床に座り込んでいた。
「気をつけろ! この部屋に何かいるぞ!」
ヒューゴの言う『何か』が女をさしているかはわからない。どっちにしろ、自分はあの女に用がある。直接問いただしたほうが手っとり早いだろう。
食堂へ慎重に足をふみ入れ、長テーブルの脇を進んで、女のもとへ向かう。
「おや、また会えたわね」
女は目を見張りながらも、どこかうれしげだ。
「よくあの状況から生きて帰って来れたわね。何をどうしたのかしら?」
よくもまあ、いけしゃあしゃあと。さっきのことがあるから、
「そっちに誰かいるのか?」
立ち上がったヒューゴが視線を泳がせながら言った。どうやら、声は聞こえていても、女の姿は見えていないようだ。
僕の肩越しに入口のほうへ視線を送っていた女が、ふいに頬をゆるませた。
「ウォルター! 伏せろ!」
ヒューゴの指示に従って、反射的に身を伏せると、ナイフが
「ウォルター、敵はどこだ!?」
「奥の壁ぎわにいる!」
僕が追いかけるしかない。かけ足で女の後を追うと、そこは
窓から外を確認する。女の姿は
だからといって、みすみす逃がすわけにはいかない。あの女がここに来た理由は、この国――ひいては
窓から外へ出て、女のもとへ向かった。けれど、またもやその姿が消えた。しばらく周囲を見渡したものの、どこにも見当たらない。
ふと、女が屋根を見上げていたのを思いだし、そちらへ目を移した。やはり、女はそこにいた。ここまで来れるものなら来てみろ。そう言わんばかりの顔で、こちらを見下ろしていた。
望むところだ。悪いけど、屋根にのぼることなんて、こっちにとってはお手のもの。今すぐ行ってやる。
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