トレイシーの最期(前)
◆
ウォルター達は広場をつっきって、その先でクレア達の姿を発見した。
「あのゾンビが向こうにいました」
「よし、全員で行くぞ」
「待ってください! 急にラッセルの姿が見えなくなったんです。ゾンビと遭遇する前の話なんですけど」
「……ラッセルが?」
「とにかく、そこへ行きましょ」
それから十数分後。
「あっちで炎が上がったわ!」
炎を目撃したクレアの声が上がり、五人が次々とそちらへ急行した。
現場に一番乗りしたクレアは、思わず息をのんだ。そこに横たわっていたのは、
次にウォルター達が到着し、さらに、ギル、トレイシーと続いた。
「ラッセルっていう人は、まだ見つかってないの?」
クレアが
「ラッセルなら、すぐそこで腰をぬかしてたぞ」
ギルがそう答えると、クレアやトレイシーが
「見てください。緑のラインが入っています」
ウォルターが死体の足もとを指さした。上半身の衣服は焼きつくされて
「じゃあ、これがキースってわけか」
「これで一件落着……したのかなあ」
クレアがため息まじりに、やりきれない思いを口にした。
事件は解決を見たものの、
◆
クレアとウォルター達がストロングホールドへ戻って事態を報告し、トレイシーチームの三人は、この場に残って
「それじゃあ、ストロングホールドに帰りましょうか」
「ちょっと待ってくれ」
クレアは立ち去りぎわに、トレイシーから呼び止められた。そして、
「あれは君がやったんじゃないのか?」
「私じゃないわ。ラッセルっていう人じゃないの?」
トレイシーは
しかし、ある事情を知るトレイシーにとって、それはあり得ないことだった。他に考えられるとしたら、追いつめられたゾンビが
トレイシーが納得できなかった理由は、あらかじめ、ラッセルから以下の告白を受けていたからだ。
◆
それは
「キースに火の指輪を貸した?」
「はい。オオカミに遭遇するかもしれないからって、行方不明になった当日に。すいません。事が大きくなりすぎて、言い出すタイミングがなくなってしまったんです」
責任を問われるのを恐れ、ラッセルは指輪を貸した事実を報告していなかった。
「今、キースが火の指輪を持っているということは……」
「例の通報にあった魔導士はキースかもしれません」
トレイシーは
あわよくば、
しかし、問題が一つあった。ラッセルがレプリカの指輪をはめているため、魔法を使うことができない。トレイシーが彼を未熟者と呼んだり、彼の身を案じていたのもそのためだ。
この非常事態に別の指輪を用意するヒマも当てもない。かといって、不在の攻撃役を
トレイシーは
◆
だからこそ、ラッセルがゾンビを始末できるはずがない。レプリカの指輪で魔法を使うことはできない。それならゾンビを黒こげにした人間は、いったい誰だというのか。
(いや、待てよ……)
トレイシーが内心でつぶやいた。一つだけ方法があった。ゾンビから火の指輪を奪い取り、証拠
これならラッセルに動機が存在し、
仮にそうだとしたら、かつての
とにかく、ラッセルを問いたださなければ始まらない。トレイシーははらわたがにえくり返る思いで、彼をさがした。
◆
トレイシーは薄暗い
「どういうことだ、ラッセル」
「……何のことだい?」
「しらばっくれるな」
鼻で笑ったラッセルは不愉快そうに地面へ目を落とした。日頃のラッセルらしからぬ
ふとラッセルの左腕に違和感をおぼえた。傷や衣服のやぶれなど、
「その左腕のケガは、ゾンビとやり合った時に負ったものか?」
「……何を言っているのか、全くわからないんだが」
ラッセルの
「とぼけるな! お前、キースから指輪を奪ってあんなことをしたのか? あそこまでやる必要が本当にあったのか!?」
「君が何を言ってるのか、わからないと言っているんだ」
「それはレプリカの指輪だと、自分で言ったはずだ!」
トレイシーは
「そういうことか」
ふいに背後で声が上がった。トレイシーが振り返ると、けわしい表情のギルが立っていた。
「やっと納得がいった。まさか、魔導士がここまで指輪を持たずに来るとは、想像だにしなかった。おかげで、魔法が使えないのは、単にあいつが無能だからかと、勘違いしてしまったよ」
「……ギル、何の話だ」
「うかつだった。わかっていれば、むざむざ新品を処分することもなかったのに」
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