トレイシーの最期(後)
◆
スプーとネクロの二人は〈侵入者〉の
十日ほど前、彼らは〈樹海〉において、ある実験を行っていた。その現場をキースに目撃されてしまい、彼を
その結果、
捜索活動を
当初から、ネクロはラッセルの体へ乗りかえる予定だった。ウォルターの登場で
どういうわけか、ラッセルの体で魔法が使えなかった。これではキースの体を処分することができない。さらに、ネクロは魔法の使用に楽しさを
やむなく、ネクロは元のキースの体へ戻り、ラッセルをキースに
「ギル、何を言っているんだ?」
トレイシーは
「君こそ何を言っているんだ。君の後ろにいる男は、本当にラッセルか?」
理解不能な言葉を投げかけられ、トレイシーはかたまった。背後から人が近づく気配を感じ、とっさに振り向こうとしたが、相手の腕が自身の首にかかるのが先だった。
トレイシーは懸命に振りほどこうとした。不意をついたとはいえ、体格差がない上に片腕しか使えないため、ネクロは大きく左右に振られた。
しかし、前方にいたギルが、たたみかけるようにナイフでおそいかかった。脇腹に深くナイフを突き立てられ、トレイシーの顔が
「お前ら、何を……」
「君ら魔導士は魔法を
人体に『
腹部からドクドクと血が流れ落ち、トレイシーは手足に力が入らなくなった。最後の力を振りしぼって、背後のネクロを振り向くと、その顔はラッセルでなく、キースのものへ
大量出血と
ギル――スプーの能力は
「お前は……、どうしてお前が……」
「私が誰だかおぼえているのかな?」
別人と化したスプーがほくそ笑んだ。黒髪のいかめしい中年男性は、金髪の若々しい姿に
トレイシーは目を疑った。最後に目にした男は、五年前に〈樹海〉で戦死したはずの、なつかしき友の姿をしていた。
◆
「スプー。腕がプラプラしてないし、こっちのほうがいいな」
「好きにしろ」
スプーは周囲を警戒しながら答えた。村に残っているのは彼ら以外にいないが、クレア達が戻って来ないともかぎらない。
「それより、例のウォルターという男が気にかかる。お前の話が本当ならば、一度検証しなければならないな。いざという時に『アレ』が役立たなければ、我々の計画が
「しかし、あんな能力を持つやつは〈外の世界〉にもいなかったよ。あの男はいったい何者なんだい?」
二人の懸念はウォルターの空中飛行でなく、ゾンビとつないだリンクが強制的に切断された現象だ。マヌケなネクロのことだから単純ミスではないか。最初、スプーはそう疑っていた。
「思いあたる人物が一人いる。お前もトリックスターという名を耳にしたことがあるだろう。伝承に残るそいつの能力なら、そんな芸当も可能かもしれない」
「あの『最初の五人』の一人かい? そいつはずっと行方不明だったよね?」
ネクロと違い、スプーはギルという魔導士の
けれど、そんなスプーでも、ウォルターの話は初耳であり、そのような能力の持ち主がいるという噂すら、聞いたことがなかった。
「突然この国に現れたのか、単にスプーが見落としていただけか。そのどちらかだね」
ネクロの自身を非難するような
「で、そいつはこっちの仲間なのかい?」
「『最初の五人』なら我々の
彼らはパトリックをヒプノティストと呼び、その所在はおろか、能力の
(二十年近く、ようとして行方のつかめなかった男が、今になってなぜ姿を見せた。もしや、我々の計画が
スプーは疑念を持たざるを得なかったが、たとえそうであっても、長年続いた
「『
彼らの目的は
「ネクロ、レイヴンズヒルへ行くぞ。事は――確実に動いている」
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