魔法の特訓(前)
◇
聞き取り調査の
おどろくことに、あとは自由時間も同然で、居場所を告げた上で城内にとどまっていれば、何をしていても良いそうだ。
「ウォルター。魔法の特訓でもしないか?」
スコットから願ってもない誘いを受けた。おとといの試合以来、仕事に追われ続けていたから、魔法を使う機会に恵まれてない。ケイトも加わって、三人で〈資料室〉の裏手に移動した。
「ざっと説明するぞ。魔法には火・水・氷・雷・風の合わせて五つの属性がある。攻撃力にすぐれるのは『火』と『雷』の二つ。ゾンビが相手の場合、攻撃に用いるのはもっぱらこの二つで、残りの三つは足止めに利用される。
ただし、人間同士となると話が百八十度変わってくる。『水』や『氷』は防御面で力を発揮するし、『風』は他属性との連携で絶大な効果をもたらす」
「五つの属性同士には相性があります。例えば、『火』の防御には『氷』と『水』が
相性という面で一番あつかいづらいのは『雷』です。防御面、連携面で好相性のものはゼロ。そのため、『雷』は単独で用いる方が多いです。救いは攻撃面で相性の悪い属性が存在しないことで、何だかんだで人気があります」
「複数の魔法を同時に発動できるってことでいいの?」
「それは無理だ。発動は別々で、それぞれの魔法を順々に使っていく」
「最初に発動させた魔法が消えないうちに、次の魔法を発動させるんです。例えば、発現させた『火』を『風』で操作したり、空気中に
「その場合、発動させる順番も非常に重要になってくるぞ」
実際に試さなくても、どれもこれも感覚的に理解できた。『火』と『雷』の連携が
「『風』は火・氷・水と連携できる万能属性で、第二の魔法として引く手
「この俺だ」
そう言ったスコットが、立てた親指を得意げに自身へ向ける。
「まともな人間のすることではありません。くれぐれもマネをしないでください」
「おい」
スコットが静かな怒りを見せる。そういえば、パトリックが『多少難があるけど才能に恵まれている』とスコットを評していた。聞いた時は性格面だと勝手に予想したけど、たぶん、このことを言ったのだろう。
◇
この後、講義は実戦的な戦法に移った。
「『風』の基本的な技は二つ。『
スコットが
どちらも先日の試合で僕が使っていた魔法とウリ二つだった。どうやら、無意識のうちにできていたようだ。
「『風』はこの二つの技を組み合わせて戦う。ウォルターはこの間の試合でもできてたな。ただ、なるべく『かまいたち』を中心に組み立てるべきだ。
理由は空気を切りさく音に
スコットの顔つきが変わった。かすかに色づいた『風』が周辺の砂を巻き上げながらうずを作った。
まもなく、直径二メートルほどのつむじ風がくっきりと姿を現した。大気をかき混ぜるようなかん高い音が、だんだんとするどさを増していく。
「決め技として使われるのが、この『つむじ風』だ。これで相手を包囲できれば勝ったも同然。魔法ごしに魔法を発動するのは不可能に近いからな。まあ、『風』でそこまで追いつめるのが大変なんだけどな。
『風』は攻撃力が弱く
「ちょっと待ってください。何で『風』のみで戦うこと前提なんですか!?」
ケイトの言葉でハッとなった。つい聞き入っていたから、たくみに誘導されていたことに気づかなかった。
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