定例会合
◇
「ただ今より、定例会合を始めます!」
出席者が続々と演壇の近くに集まり出す。その輪に加わることなく、静かに待ち続けていると、パトリックが小声でこう言った。
「これからしばらく、幹部達の報告が続きますが、聞き流してもらって結構です」
定例会合の幕が
対して、演壇前に集まる出席者達の緊張感はうすい。整列する様子はなく、ヒソヒソと談笑する人までいて、高校の全校集会とあまり変わらない。
出席者の面々は二十代、三十代が中心だけど、自分と同年代の若者もチラホラいる。
「上半期のゾンビ化による死者は計百五名、新たな行方不明者は二十三名、捜索中の行方不明者は二千三百四十一名。都市部への移住計画のかいもあり、ゾンビ化による犠牲者は、引き続き減少の
「つい二日前、東地区と東南地区の境界付近において、ゾンビの出現が確認されました。
なお、当該ゾンビは
幹部達の報告は、ゾンビ関連の話題が中心だ。この平和な国では、まれに現れる〈侵入者〉しか外敵がおらず、国民の結束力が強いため、
そんなわけで、ユニバーシティの活動はゾンビ対策が相当の
やはり、〈侵入者〉という目に見える敵よりも、ゾンビ化という体にいつ襲いかかってくるかわからない、
◇
「最後に、アカデミー
司会進行の男がそう声を張り上げた。パトリックが僕に目配せしてから、壇上へ向かう。パトリックの話は『〈侵入者〉に対する警戒をおこたるな』といった
「度胸だめしとばかりに〈樹海〉へ立ち入ったり、『樹海の魔女』討伐の計画が持ち上がった、といった話を耳にします。
周知の通り、
パトリックが〈
「断る!」
その直後、怒声が出席者の中から上がった。
ギョッとして、声の上がった方向に目を向ける。発言者はすぐに判明した。ひと際目立つ長身の男が、するどい眼光で、パトリックをにらみつけていたからだ。
周囲の反応はいたって冷静だ。無関心な者が多く、恒例のやり取りなのか、ウンザリとした空気を感じた。当のパトリックも、何事もなかったように言葉をついだ。
「最後に、今日はみなさんに新しい仲間を紹介したいと思います」
こういった状況になるのは覚悟していた。だから、気が進まなかったんだけど。パトリックの手まねきに応じて、遠慮がちに壇上へ進み出た。
「今日からユニバーシティの一員となるウォルターです」
軽く頭を下げると、聴衆からパラパラと拍手が上がった。
「彼は正規の
にわかに聴衆がざわつき出した。ジェネラルが誰なのか、この時の僕は知る由もない。しかし、雄弁に語るパトリックは、これまでと別人のようだ。
「この場に休暇中のジェネラルがいらっしゃらないのは残念ですが、このウォルターは
ざわつきがどよめきへと変わり、聴衆からはやし立てるような拍手がわいた。大会堂のボルテージに比例して、パトリックはより
依然として、話の内容は理解できないけど、それがとんでもない発言なのはまちがいない。
聴衆の
「頼もしいことに、ウォルター自身からも、『ユニバーシティに加入するからにはジェネラルの座をめざす』、そんなかたい決意をうかがっております」
「よく言った!」
「やってやれ!」
いたるところから
頭が混乱し、今にも
「以上で話を終わらせていただきます」
パトリックがあいさつをしめくくると、彼を壇上から引きずり下ろし、近くの出入口から大会堂を後にした。
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