レイヴン城(後)
◇
「ちょっと待ってください」
話を打ち切ろうとするパトリックを押しとどめた。
「いきなり本格的すぎませんか? もっと気楽にできそうな、普通の仕事から始めませんか? 第一、僕は魔法が使えません」
まだ社会経験がゼロと言っていい学生の身分。段階をふみたいと思うのが当たり前だ。
「本当に使えませんか? ウォルターにはあの能力があるじゃないですか」
パトリックが自信満々に言いきった。言い返すことができない。自分自身、
「昨日述べた通り、私は研究機関たるアカデミーの
この世界に身を置くのならば、いずれ魔法を使えるようになりたい。あこがれに近い気持ちを、少なからず持っている。
仕事についていけないようなら、辞めればいいか。僕はなかば観念するように覚悟を決めた。
◇
東門をぬけた先の
パトリックが机の引き出しから、何かを取り出す。それは貴族が指にはめている例の指輪だった。小さなそれが手渡されると、食い入るように観察した。
指輪は銀色のリングの部分と宝石が一体となっている。エメラルド色の宝石には透明感と
「これが魔法を使えるようになる指輪ですか?」
「それは本物ではありません。昨日の今日なので、レプリカしか用意できませんでした。今、手配しているところなので、しばらくはそれで我慢してください」
「……わざわざレプリカの指輪をはめる理由は何ですか?」
「ユニバーシティは魔導士の組織ですから、指輪をはめていないと格好がつかないと言いますか、周囲から、あやしまれてしまいます」
それなら、なぜあせって事を進めるのだろう。レプリカの指輪なら魔導士として働くこともできない。その疑問をパトリックにぶつけた。
「今日は
納得のいく答えだったとはいえ、人前に出るのを、大の苦手とする自分にしてみれば、目まいがするほど気乗りしない話だった。
◇
執務室を出て、定例会合の行われる
「指輪は
「そんな貴重な物を僕がもらってもいいんですか?」
「大丈夫です。実務にたずさわる人間へ、優先して譲渡する決まりがありますから」
「学長は指輪をしていないんですか?」
「私は貴族でも魔導士でもありませんから。魔導士をめざした時期が私にもありましたが、才能に恵まれていなかったので、その道は早々にあきらめました」
パトリックは平民だ。現代的な感覚ではおどろくに値しない。この時は平民にも
正面にスカイツリーのような高い塔が見えてきた。広大な下層部にくらべ、上層部が極端に細長いアンバランスな構造で、別の建物を上から突きさしたように見えた。
「目の前の建物が宮殿です。中央にそびえる塔は〈
左右に
◇
大会堂はその名の通り大きかった。二百人は下らない出席者でごった返し、彼らは一様にユニバーシティの制服で身をつつんでいる。
会場にイスは用意されておらず、彼らはグループをつくって、自由気ままに立ち話に興じている。肩ひじを張った様子はなく、どこかパーティーのような雰囲気さえあった。
壁ぎわの通路から奥へと進む。時おり、出席者から視線をそそがれ、さながら転校生の気分だった。
一番奥に演壇があり、その最前には演説台がすえられている。背後には五つの座席が配置され、そこにはマントをまとう威風堂々とした魔導士が座をしめていた。
「壇上にいるのがユニバーシティの幹部達です。全員マントを着用しているのがわかると思いますが、あれが各機関の幹部である証です」
演壇脇でパトリックとならんで待機していると、
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